っくし!
アストロトレインは自分のくしゃみに驚いて目が覚めた。
全身がすっかり強張っていて、身体を起こすと関節が嫌な音を立てた。
目の前に突っ伏して小さくいびきをかいているオクトーンに、昨日の騒ぎを思い出す。
なんの拍子か(宴会に何か理由が必要だろうか?)アストロトレインの部屋に集まって三人でわいわい騒いで飲みまくって、…そのまま寝てしまったようだ。
自分がどれだけ飲んだのかおぼえていないが、机や床の上にまでちらばった空のエネルゴンキューブの数に顔を顰めた。
三人で飲んだにしても多すぎる。
部屋を見回してアストロトレインはブリッツウィングがいないことにふと気付いた。
なんだか胸騒ぎがして、オクトーンを起こす。
「おいっ、オクトーン!オクトーン!」
うぅ、と呻いて顔を顰めながら起きたオクトーンはああ?と不機嫌な声を出した。
「ブリッツウィングがいないんだよ!」
「んだよ、どっかいってんだろ…」
そんなことで起こすな、とまた寝ようとしたオクトーンを張り飛ばす。
大声を出したアストロトレインをオクトーンはびっくりした顔で見た。
「そんなことってなんだ!ブリッツウィングが…ブリッツウィングがいないんだぞっ!」
「…お前まだ酔ってんのか?」
「ああっブリッツウィング!どこ行ったんだ!」
半狂乱に近い取り乱し方をしているアストロトレインにオクトーンは耳が痛い、と顔を顰めた。
酔ってるな、と結論付けて机越しに頭をはたく。
「取り乱すな、うるせぇ」
ぐす、と鼻をすすり上げてアストロトレインは少し泣きそうな顔をする。
酔いが変な方へまわったらしい。
溜息をついてオクトーンは二日酔いで痛む頭をゆっくり回転させ始めた。
「とりあえず自分の部屋に帰ったんじゃねぇか?」
「いや、あいつは寝るんなら俺のベッドで寝る!」
力強く断言したアストロトレインを冷めた目で見て、オクトーンは「でもいないだろ」と宣告する。
ブリッツウィングぅ、とべそをかき始めたアストロトレインに視覚回路を切ってしまいたいのを必死に堪え、部屋からけり出した。
なんでいなくなっちまったんだ?!と今度は怒りのベクトルに感情が向かい始めたアストロトレインを無視して、ブリッツウィングの部屋のドアを叩く。
返事無し。
無理矢理こじ開けると、アストロトレインが何故か苛立ったような声を上げたが、無視。
「ブリッツウィングー?」
暗い部屋は不用意に踏み込むと何かを踏んづけそうなので、スイッチを手探りで探す。
ふん、と勝ち誇ったように鼻を鳴らしてさっと電気を付けてみせるとアストロトレインはまっすぐベッドの方へ行った。
なんでスイッチの位置とか知ってるんだ、とかそういう疑問は意味のないものだ。
アストロトレインはぱふぱふと布団を押さえて「いない…」と呟いた。
「いない!ブリッツウィングがいねぇ!」
「んな叫ぶな…」
頭に響く、と顔をしかめたオクトーンに構わずアストロトレインはその胸倉を掴んでぐいぐい揺さ振った。
「ブリッツウィングがいねぇぞ!」
「俺の、せいじゃ、ねぇだろ!」
この馬鹿野郎!とアストロトレインを蹴り上げて、げしげし蹴り付けるとオクトーンはうーん、と首を傾げた。
部屋にいないとなると、やつは一体どこへ行ったのだろう。
まさか…俺の部屋ってこたぁねぇよな。
嫌な考えが頭を過ぎった時、床に倒れていたアストロトレインが急に起き上がって殺気を含んだ目で睨みつけてきた。
「てめぇ、自分の部屋に隠してんじゃねぇだろうなぁ?!」
同時に同じ予想に行き着いたのはいいが、隠すってのはなんだ。
「ブリッツウィングに手ぇ出したんじゃねぇよなぁ…」
「アホか」
「お前の部屋にいたらぶっ殺してやる」
「俺の部屋に万が一いたとしても別に俺が唆したわけじゃねぇぞ」
凄まじい量の殺気を撒き散らしながら部屋を出たアストロトレインに肩をすくめて後に続く。
手加減抜きに扉をぶち破ったアストロトレインに溜息をついて、オクトーンは扉の吹き飛んだ自室に入る。
「いねぇだろ?」
ちょっと安心した顔で振り返ったアストロトレインは、その後急に顔色を変えた。
「まさか…外にでたんじゃねぇよな?」
「それはねぇだろ、基地のどっか…」
どん、と突き飛ばされてオクトーンは言葉を止めた。
焦ったように走り出したアストロトレインを慌てて追い掛ける。
「おい、どこ行くんだよ!?」
答えもせずにアストロトレインはトランスフォームした。
「ばっ…」
慌てて避けたが、風圧に蹌踉ける。
「あの野郎、どんだけオイルのぼってんだ!」
風圧に負けて剥がれた壁を見て顔を引き攣らせるとオクトーンもトランスフォームして後を追い掛けた。
轟音と共にコントロールルームの扉を突き破って勢いのまま飛び込んできたアストロトレインに、コントロールルームに詰めていたサウンドウェーブとスタースクリーム、スカイワープは目を見張った。
「何事だ」
最初に反応したサウンドウェーブがアストロトレインを睨みつける。
「ブリッツウィングが出て行かなかったか」
情報参謀の視線をものともせず、アストロトレインはモニターに近付いた。
遅れて到着したオクトーンはまた吹き飛ばされた扉に、呆れたように息をついて中に入った。
「一体なんだよ」
まだ状況の掴めていないスカイワープは、混乱した様子でオクトーンを見た。
「ブリッツウィングが消えたんだ」
ざっくりした説明に余計こんがらがったスカイワープは黙り込んでしまう。
一方大体の事情を飲み込んだスタースクリームとサウンドウェーブはかたかたパネルを叩いて、アストロトレインの知りたがっている情報をモニターに出してやる。
「出てはいねぇみたいだな」
スタースクリームが言い、続いてサウンドウェーブが別の情報をモニターに映す。
「各自の居場所だ、信号を分析して位置を確認出来る」
「はやくやってくれ」
しがみつかんばかりに言うアストロトレインに頷いて、サウンドウェーブはブリッツウィングの情報を探し始めた。
「……」
「んだよ、まだか?!」
苛々と情報参謀の椅子を叩くアストロトレインをスカイワープとオクトーンはびくっとして見た。
「おい」
スタースクリームが少し固い声でモニターを指差した。
「壁が一箇所ぶち破られてるぞ」
「…!?」
その位置を確認するなりアストロトレインが飛び出していく。
「ちっ」
めんどくせぇ、と顔を顰めつつスタースクリームはサウンドウェーブに視線を向ける。
「基地にはいねぇか」
「そのようだ」
「飛び出したってのか?…なにしてんだ、あの野郎」
「メガトロン様に報告する。」
「ビルドロンにも一応言ってくれ、いつ浸水し始めるかわからないからな」
ぼんやりと破られた穴を見て立ち尽くしているアストロトレインに追いついたオクトーンは、その呆然とした表情に声を掛けられずにいた。
報告を受けてやってきたグレンとスクラッパー、ロングハウルも同じく言葉を発する事ができずにいた。
暗い沈黙を破ったのは破壊大帝だった。
next