midair





「ブリッツウィングが抜け出した、だと?」
 メガトロンの冷静な声にアストロトレインがぼんやりと振り向いた。
「俺が…寝ちまったから」
 呟いて、アストロトレインは視線を落とす。
 オクトーンが近付いて肩を叩くが、反応する事もなく。
 メガトロンはやってきた情報参謀を振り返って命じた。
「サウンドウェーブ、コンドルとバズソーを出せ」
 頷いたサウンドウェーブがコンドルとバズソーをイジェクトし、命令を告げると二羽は素早くハッチの方へ飛んでいく。
 オクトーンが「行こう」とアストロトレインの腕を引くが、アストロトレインは動こうとしない。
「ここで俺達ができることはねぇんだぞ。コンドルたちが見つけてくれるさ」
 ゆっくりとオクトーンを見返してアストロトレインは漸く頷いた。
 ビルドロン達が心配そうにそれを見送る中、オクトーンはまるで感情がすっぽり抜け落ちたかのような顔をしているアストロトレインの手を引きながら溜息をついた。
 ブリッツウィングは一体どこへ飛び出したのか。
 このままブリッツウィングが帰ってこなかったら、こいつはどうなってしまうのか。
 祈るような気持ちで心の中でブリッツウィングに呼びかけ、自分の無力さに溜息しかでない。
 とりあえずコントロールルームに戻り、報告を待つしかない。
 なにもできないのは歯痒かったが、メガトロンは勝手に探しにでるのを許さないだろう。
「どうだ?」
 スタースクリームに尋ねると、首を振られる。
 まともに探してくれないかと思ったが、真剣に取り組んでくれているようだ。
 アストロトレインを椅子に座らせて、モニターを見守る。
 コンドルたちが広範囲をスキャンして随時情報を送っているが、ブリッツウィングらしきものはいない。
「サイバトロンにでもつかまってんじゃねぇだろうな?」
 小さく呟いたスカイワープに戻ってきたメガトロンがうむ、と唸った。
「まさかとは思うが…」
 言ってメガトロンはサウンドウェーブに合図をした。


[何事だ、メガトロン]
「ブリッツウィングがそちらにいないかと思ってな」
[ブリッツウィング?いないぞ]
「そうか…」
 どうしたんです、コンボイ司令官、と後ろに声が聞こえ、コンボイが振り向く。
 少し話す声が聞こえ、そのあとハウンドが代わってモニターに現れた。
[こちらでも探してみよう]
 察しの良いハウンドはコンボイより先に状況を把握したらしい。
「…頼む」
 破壊大帝がそう言ったのは、アストロトレインをちらりと見てからだった。
 もう一度コンボイが現れ、メガトロン、と呼びかける。
[ブリッツウィングは脱走したのか?]
「いや、ただいなくなったのだ」
[罰せられる事はないな?]
「ああ」
 では、協力しよう、とサイバトロンの司令官は頷き、通信は切れた。


 続くコンドルたちの報告にも成果は無く、オクトーンは心配そうにアストロトレインを眺めた。
 無表情でモニターを見ているのか、いないのか。ただ視線をそこへやっているだけ、という感じで先ほどの指揮官同士の会話も果たして聞いていたのか。

「スタースクリーム以外のジェットロン部隊、そしてオクトーンとアストロトレインも行け」
 スカイワープ、指揮をとれ、と命じてメガトロンはアストロトレインの前に立った。
「アストロトレイン」
 のろのろと視線を向けたアストロトレインを立たせて、メガトロンはその目を覗き込む。
「見つけてこい」
 それに反応したのか目に少し光が戻り、アストロトレインは頷いた。

 スカイワープとサンダークラッカー、そしてラムジェット以下の新ジェットロン、トリプルチェンジャーに分かれて捜索は開始された。

 無言で飛び続けるアストロトレインに並んでオクトーンはスキャンを始めた。
「オクトーン」
「ん?」
「もし、ブリッツウィングが変形に失敗していたら」
 まさか、と言い掛けてその可能性に顔を顰める。
 ブリッツウィングの機構上、変形に失敗することは良くある。
 その間ブリッツウィングは一人ではどうする事も出来ない。通信すら出来ない。
 大抵の場合、アストロトレインが傍にいてどんな状況下でも素早く安全なところへ運んでいくから、なんの問題も無いし、基地内では仲間がいるから同じく問題はない。
 ただ、一人で飛び出して何かの拍子に引っ掛かってしまっていたら。
 海に落ちたりしていたら絶望的だ。
 考えたくないことではあるが、その可能性を完全に否定する事は出来ない。

「ブリッツウィング」
 呟いてアストロトレインは顔を歪めた。
「違うよな、どっかにいるんだよな」
 縋るような声にうん、と上辺だけの励ましを掛ける事など出来なくて。
 ただ無言でスキャンの精度を高める。


 その時、スタースクリームから通信が入った。
[ハウンドが見つけた。地点592、そこからだと東へ4qだな]
「了解」
 通信を切るのももどかしく二人はトランスフォームすると一気に加速する。

 近付いてきた轟音にハウンドは空を振り仰ぎ手をあげた。
「ここだ!」
 飛び降りてきたアストロトレインが走ってくる。
「ブリッツウィング!」
 ラチェットがブリッツウィングからそっと離れる。
「ブリッツウィング」
「アストロトレイン」
 来てくれたのか、とブリッツウィングは嬉しそうに頬を緩めた。
 ほっとしたように息をついたアストロトレインはやっと笑みを浮かべた。
「心配させやがって、この野郎」
「悪い。変形に失敗しちまって、帰れなくなって」
「お前が治してくれたんだな」
 ありがとう、とラチェットに顔を向けてアストロトレインは頷いた。

 オクトーンもほっとしたように肩を落とすと、ブリッツウィングの頭を弾いた。
「アストロトレインのお守りは俺一人じゃ無理だ」
 苦笑いすると、ブリッツウィングはにやっと笑う。
「だろうな」
 立ち上がってブリッツウィングはくるりとトランスフォームしてみせた。
「ありがとよ、サイバトロンの軍医さん」
 言ってブリッツウィングは空に飛び立った。
 安心したようにそれを見るオクトーンとアストロトレインも、もう一度ハウンドとラチェットに頷いて彼を追った。


 三人綺麗な編隊を組んで基地へと帰還する途中、合流した皆が口々にブリッツウィングに声を掛ける。
「あんな取り乱したアストロトレインは滅多におがめねぇよな」
 笑うラムジェットにロボットモードにトランスフォームしたアストロトレインが叫びかえす。
「口閉じてねぇと後悔すんぞ!」
「ああ?!今更恥ずかしくなってんのか?」
 ぎゃはは、と爆笑し始めたラムジェットにちゅいん、と威嚇射撃が飛ぶ。
「やりやがったな!」

 あっという間に空中でロボットだの戦闘機だのが入り乱れ、笑いと銃声が辺りに響き渡った。




*2008/10/22
*2009/06/21 加筆修正