息苦しさはだんだんひどくなり、目の前の景色がゆがみ始めた。
足元にあるはずの地面も感じられずに、スカイファイアーは体を支えるものを求めて手を伸ばした。
広い空間に一人きりで、手を伸ばしたところで掴まるものなどないことは分かり切っていたけれど。
「どうかしたか?」
空を掴むと思っていた手は自分のより小さい、でも力強い手に掴まれた。
空気を吸い込もうとした喉が驚きに変な音を立てる。
霞んだ目でもその顔は見間違えるわけがなかった。
「スタースクリーム」
見られたくなかった、と無様な自分をスカイファイアーは恥じた。
強くあれと望まれ、強くありたいと望む。
しかしその二つの強さは決して同じではなくて、そのどちらもはっきりと選べずに迷い続ける自分を見られたくはなかった。
特に、スタースクリームには。
これ以上の醜態をさらすのはごめんだ。
だのにそう思った瞬間、スカイファイアーの身体はぐらりと揺れた。
スタースクリームの短い悲鳴が聞こえ、気が付くとスカイファイアーは地面に倒れ込んでいた。
掴んだままの手に引っ張られてスタースクリームも尻餅をついている。
スタースクリームが何か言っている。
怒ってるんだろうな、謝らなければ、と思っても身体も口も動かなかった。
息が苦しい。エラーを訴える警告が目の隅でちらつく。
ぐいと胸倉を掴まれるのがわかって、スタースクリームの舌打ちが聞こえた。
怒って、少し焦ってもいるような顔が近付くのをスカイファイアーはぼんやり見つめた。
「ったく、馬鹿が!」
乱暴に剥ぎ取られたヘルメットが部屋の向こうに飛んでいって大きな音を立てた。
「無理ならやめろと言っただろう? 死にたいのか!」
さっきまでの苦しさが嘘のように楽になり、視界もぐんとクリアになる。
もの凄く近くにあるスタースクリームの顔はやっぱり焦っているように見えた。
「すまない」
「謝るくらいならこんな馬鹿げた真似をやめろ」
不機嫌に言って向こうをむいてしまった彼に、スカイファイアーは何も言えなかった。
徐々に消えていくエラーと一緒にいっそ自分も消えてしまえばいいのに、とそれこそ馬鹿げた考えが頭を過ぎる。
立ち上がるとスタースクリームの背中が微かに動いた。
「……もう、いいだろ。もういい。もうそんなもの」
どこか懇願するような声でスタースクリームが言う。
ヘルメットを拾おうと屈みかけた身体を起こして、スカイファイアーは微笑した。
「だめなんだ、スタースクリーム。こんなになっても、私には必要なものなんだ」
そう、これが無くては君を守ることはできない。
変わりつつある状況の中で、嫌ってきた力こそが唯一頼れるものだと知ったから。
「なんでだよ……なんでそんな」
俯いたスタースクリームの手をひくと、抵抗しない彼の身体は簡単にスカイファイアーの腕の中に収まった。
いつも彼をこうやって抱いていられたら、戦いに臨む苦しさより大きな、彼を失うかもしれない恐怖を味わわなくて済むのに。
そう言ったらきっとスタースクリームは怒るだろう。そんな守られ方はされたくないと。
だから、どんな時も、どこにいようとも、彼を守れる力が欲しい。
選ばなくてはいけない。後悔する前に。
ぎしりとヘルメットが軋んだ。
*2010/03/31