midair





「くそ…っ」
 がしゃんとリペア台に拳を叩き付ける。
 装甲が剥げて、台に青が零れた。
 スカルやワイプがいなくてよかった。
 ものに八つ当たりしている姿など見られたくはない。
 溜息をついて台に座り込むとウルフは剥げかけた手の甲をぼんやりと眺めて乱暴に擦った。
「随分荒れているな」
 一番会いたくない相手の声に舌打ちをしてぶっきらぼうに返す。
「あんたには関係ないでしょうが」
「弱い奴は憐れだ」
 なぁ、とスラッグスリンガーは肩に乗せたターゲットマスターに言って笑う。
 嘲るような調子にウルフはぎりっと唇を噛んだ。
「怪我でもしたか」
 リペア台に近付いてきたのを睨みつけたが、スラッグスリンガーは口を歪めて笑うだけ。
 一々神経を逆撫でしてくる、鬱陶しい奴だ。
「何をしに来た」
「何だと思う?」
 人を喰ったような言い方に苛立ちが募る。
 答えずに立ち上がって部屋を出ようとすると、腕を掴まれた。
「まだ直っていないようだな」
「お前には関係ない、離せ」
「どれ、俺が見てやろう」
「触るな」
 手を振り解くと冷たい目で睨め付けてきた。
「俺が直してやろうと言っているのだぞ」
「結構ですよ」
 睨み返して行こうとすると、目の前の扉に火花が散った。
 振り返ればスラッグスリンガーがターゲットオンした手をこちらへ向けている。
「頭の弱いやつだな、直してやろうと言っているんだ」
「あんたこそおつむがどうかしてるようですね、先輩。いらん世話だ」
「弱い犬ほどよく吼えるってのは本当らしいな」
「なんだと」
 剣を構えると、馬鹿にしたような表情をする。
「そんなもので相手をするつもりか。なめられたものだな」
「お前こそ、そんなおもちゃでいいのか」
「なにを」
 放たれた弾を避けて素早く肉迫する。
 ち、と舌打ちをしたスラッグスリンガーに一撃を浴びせて笑い声を上げる。
「どうした、本気を出せよ戦闘のプロさん」
「抜かせ」


「っ!」
「口ほどにもないな」
 背中を壁に強かに打ち付け、ウルフは一瞬動けなくなった。
「学習することも大事だぞ。逆らってばかりでは命がいくつあっても足りん」
 乱暴に胸倉を掴み上げられてリペア台に放られる。
 上体を起こすと顎を掴まれスラッグスリンガーがしげしげと覗き込んできた。
 一瞬殴られるかと思って身を竦めたが、ふん、と鼻を鳴らして手を放す。
「威勢の良いやつは嫌いじゃないが、お前は気に食わない」
「…は、俺だってお前なんかに好かれたくないね」
「どうも分からないようだな」
 黙って睨みつけると、肩を竦めて笑みを浮かべる。
「ま、いいさ」
 ふいに押されてバランスを崩したウルフは台に寝そべる形になった。
「ふん、この程度のやつを近くに置いておかれるなんて大帝もどうかしてるな」
 首を振りながら言われて頭にきた彼は身を捩ったが、煩げに押さえつけられてしまう。
「は、なせっ」
「少しは黙れないのか」
 ぐっと左足を掴まれてウルフは息をつめた。
 隠していたつもりだったが足をわずかに引き摺っていたのに気付かれていたらしい。
 冷たい一瞥を寄越してから、スラッグスリンガーは道具を引き寄せて直し始めた。
 舌打ちをしたくなるのを堪えて、その手元を見守る。
 慣れた手付きであっという間にリペアが終わり、顔を向けたスラッグスリンガーは礼は?と言わんばかりの表情。
「…ありがとよ」
「ふん」
 くそ、こんなやつに、と歯噛みしてリペア台に起き上がったウルフを楽しそうに見て、スラッグスリンガーは道具を片付けていたキャリバーストに声を掛けた。
「いくぞ」
 ウィアードウルフの刺すような視線にも余裕の笑みを浮かべてスラッグスリンガーはリペアルームを後にした。
「ちくしょう」
 残されたウルフはほんとにいけ好かない野郎だ、と首を振って立ち上がった。
 と、ドアが開いてスカルが顔を覗かせた。
「あ、ウルフ、大丈夫か?遅いから心配してたんだぜ」
「あぁ」
「なんか機嫌悪いな」
 首を傾げるスカルの肩に手を回してばしばし叩くと、大きく息を吐いてウルフは首を振った。
「もう平気だ」
「ふーん」
「ワイプはもう報告に行ったか?」
「うん、今行ってる。俺達も行くか?」
「そうだな」
 歩き出してウルフは小さく舌打ちをした。
 滑らかに動く左足が、今はひどく憎らしい。




*2008/09/26
*2009/06/22 加筆修正