コントロールルームでの見張りと探索、その他解析などの雑用任務は、人気がない。
戦闘好きのデストロン軍団において、長時間椅子の前に座っていられるものは少ないし、その退屈さといったら破壊的なのだ。
いつなにが来るとも分からないモニターとのにらめっこ。
サイバトロンが襲撃でもかけてくれば話は別だが、そんなことは万に一つも起こらない。
近くの海域を通るのはもっぱら漁船で、以前に襲ったことはあるが利用できるようなものは何一つなかった。完全にエネルギーの無駄だったし、変な匂いがボディに染み込んで基地中が異臭に包まれた。
この仕事で唯一良いところはエネルゴンを飲めることくらいだろうか。
メガトロンも部下達の嘆きを知っているから、黙認している。
だがエネルゴン少しくらいで、という気持ちの方が強いのか、皆どうにかして仕事をさぼろうとして必死になるのが常だった。
そんな任務に今日はスラストとスタースクリームがついていた。サウンドウェーブはメガトロンに休みを貰い、部屋に籠もっている。
スタースクリームは大きな欠伸をした。全く暇だ。
デストロン軍団のNO.2である俺様がなぜこんなことをしなければいけないんだ、とメガトロンに対する不満を募らせる。
エネルゴンでも飲まないとやってられないぜ、と冷蔵庫へ向かう。
開けると誰がしまったのか、エネルゴンジャムの小瓶が入っていた。
スタースクリームはエネルゴンをひっぱりだすついでにそれをなんとなく手に取った。
一方、スラストは割と真面目に仕事をこなしていた。
一定時間ごとにセンサーの作動状況を確かめ、モニターを眺める。
短調作業は意外に好きなのだ。
スラストはこのコントロールルームの仕事を嫌っていない一握りのデストロンのうちの一人だった。
モニターをのんびり眺めていたスラストだったがふと思い立って、エネルギーのありそうな場所をさがしてみよう、と衛星のコントロールパネルを開いた。
衛星に指令を送ろうとパネルに手を滑らせたところでぐしゃっという音とともに頭に何かがぶつかった。
手をやると、べっとりと何かが手につく。焦ってよく見ると、それはエネルゴンジャムのようだ。
なぜこんなものが、と飛んできた方を見ると、暇そうな顔をしたスタースクリームが小さなエネルゴンキューブを指先で器用に作ってはジャムを詰めている。
呆れて見ていると、本当に退屈だ、と言わんばかりの表情でひょい、ひょい、とそのエネルゴンキューブを投げてくる。
おいおいおい、なんだよ!と心の中で悲鳴を上げたスラストは狙い違わず飛んでくるその小さなキューブを避け損なった。
ばし、べちょっ。
ぬるーとジャムがボディを伝わる感触がもの凄く気持ち悪い。
当たると結構痛いがなにしろ数が多い。避けるのを諦めたスラストはべたべたになった肩や腕を見て溜め息をついた。
スタースクリームと一緒になるとろくなことにならない。
もう一度パネルに目を落としたところで嫌な予感がして顔をあげると、すごい数のキューブがこちらめがけて飛んでくる。
危機を感じて慌てて机の下にもぐる。命うんぬんの話では無いが、精神的に耐えられそうにない。
机の下に滑り込んだ直後、すさまじい音とともに座っていた椅子にジャム入りキューブが着弾した。
ぐしゃぐしゃぐしゃぁ!と音も凄まじいが、立ちのぼったその匂いのきついこと。
唖然としていると、スタースクリームの舌打ちが聞こえた。
「っスタースクリーム、いい加減にしろ!」
叫ぶとだるそうな返事が返ってくる。
「暇なんだよ」
「仕事しろよ…!」
頼むから、と溜息混じりに言うとスラストは立ち上がってべたべたになった身体を見下ろした。
昨日きちんと整備をしてぴかぴかにしたばかりなのに。
文句を言ってやろうと顔をあげると、スタースクリームはエネルゴン片手にモニターを睨みつけていた。
顔を上げずに、「おい、サウンドウェーブを呼べ!」と言う。
さっきまでアホ面してたくせに、何をみつけたんだか真剣な顔でモニターを見ている。
人使いの荒い、と顔を顰めながらもサウンドウェーブに通信をいれる。
しばらくして現れたサウンドウェーブに、スタースクリームはモニターを見せる。
覗き込んだサウンドウェーブの表情は見えないが、すばやくメガトロンを呼び出した。 別のモニターに呼び出されたメガトロンを見上げて、スタースクリームとサウンドウェーブが報告を行う。
展開について行けなくて、ぼけーっと見ていたらきっとこちらをみたスタースクリームに「身体を洗ってこい」と怒鳴られた。
誰のせいだよ、と思ったが大人しく部屋をでる。どうせ彼処にいてもスラストの仕事は雑用しか無い。
ジャムの匂いがまとわりついて最悪だ。
それにしても、ジャムを投げてくるってどういうことだよ、と考えてスラストは思わず吹き出しそうになった。
スタースクリームの思考回路は理解できない。
スラストと廊下ですれ違ったメガトロンは甘い匂いに訝しげな顔で振り向いたが、スラストの姿はもう角を曲がって消えていた。
シャワールームで熱いスチームを浴びて、ジャムを落とす。
一通りべたつきは消えたものの、なんとなく匂うような気がする。
このまま甘い匂いを漂わせて過ごすことになったらものすごく間抜けだ。
それとも鼻に残った匂いかな、と顔を顰めて腕を嗅ぎながら廊下に出ると、後ろから呼び止められた。
振り向くと、スタースクリームが立っていた。
「新しいエネルギーのありかを発見したんだ」
どうりであの騒ぎか。納得してスラストは頷いた。
「さすがだな」
とりあえず持ち上げておいてさっさと部屋へ戻ろうと向きを変える。
が、後ろから足音が追いかけてきてスタースクリームが隣に並んだ。
何か言いかけては口を閉じ、を繰り返しているスタースクリームに怪訝そうな視線を投げると、ようやくスタースクリームは口を開いた。
「あのな、エネルギーを見つけたのはお前の開いた探索衛星モニターを見つけたからで…」
手柄を横取りするのをなんのためらいもなくやってのけるニューリーダー様が、まさか。
なんだか気持ち悪くて、手を振って言葉を遮る。
ジャムを投げつけられるので今日は十分だ。礼の言葉などほしくもない。
「俺はモニターを開いただけで、作動させて見つけたのはお前だろ」
いつもどおりふんぞり返っていればいいのに。
きょとん、とした顔をしているスタースクリームはやっぱりアホ面で、さっきの真剣な顔をしたやつとはまるで別人だ。
「おい、いつまでぼんやり突っ立ってんだよ。一杯やってくか?」
声をかけると、スタースクリームはいつものようににやりと笑った。
「つまみはあるんだろうな?」
偉そうに椅子に腰を下ろしたスタースクリームを振り返ってスラストは肩を竦めた。
そうそう、それでこそスタースクリームだ。
*2008/08/22 前ブログより転載・加筆修正
*2008/11/24 加筆修正