スカイファイアーは偵察をしてくる、と断って基地を出て来た。
司令官はスパイクやバンブル達となにやら遊んでいた。テレビゲーム、とかなんとかいうもので。
スパイクは基地のモニターは大きいから迫力が、と大喜びだった。
平和だな、と楽しそうに笑う皆を思い出して思わず笑いが零れる。
ここ何週間かデストロンに動きは見られない。嵐の前のなんとやら、かと心配する声もめっきり聞かなくなった。
基地はすっかり和やかな雰囲気だ。
飛び出した空は青く、抜けるように高い。
風を感じながら飛ぶのはなんとも良い気分でスカイファイアーは気分が晴れ晴れしてくるのを感じた。
高く、低く、アクロバットもしてみる。
途中で追い抜かした鳥が驚いたような声を上げたのに笑う。
センサーにデストロンの反応もないし、人間達の街にも特になにも起きていないようだ。
異常なし、呟くともう少し飛んでから帰ることにした。
青い空に白く線を引きながら、地上を見渡す。
湖の上にさしかかったとき、センサーに良く知る反応をとらえた。
降り立つと、いつも胸に描く後ろ姿が岩の上に腰掛け、水面を眺めていた。
声をかけようかどうしようか迷っていると、「近づくんじゃねぇ」と声を投げつけられる。
「近づくなっていっただろ」
振り向いた彼は口を尖らせる。
人の話を聞かないヤツだ、と呆れたように頭を振る仕草に思わず顔が緩む。
「ここで何をしてるんだい」
そっと尋ねると、「お前には関係ないだろう」と素っ気ない答え。裏切り者が、と付け加えられた言葉に潜む棘が胸に突き刺さる。
立ち尽くしていると、スタースクリームは苛立ったようにスカイファイアーを見上げた。
「…鬱陶しいヤツだな」
向けられた銃口が冷たく光る。
込み上げてきた悲しみが足をくぎ付けにしてスカイファイアーは視線を落とした。
と、スタースクリームは顔をゆがめて銃をおろす。
「全く、なんて情けない面だ。サイバトロンなんかに入るからだぞ」
岩の上に立ち上がった彼に頭をごつんと叩かれる。
図体ばっかりでかくてよぉ、と不満そうな声。
「で、なんでここに来たんだよ。サイバトロンの皆さんに連絡しなくていいのかよ」
「たまたま通りかかったんだ。一人だし、君は何もしてないだろう」
連絡する必要はないと思う。それに、
それにもう少し彼と話がしたい。
ふん、と鼻を鳴らしてスタースクリームはちょいちょい、と手招きをする。
近づくと座れ、と地面を指す。
大人しく従うと、岩から飛び降りた彼は足のあいだにすっぽり納まるように座った。
「なにかあったのかい」
昔、彼は落ち込むとよくこうやって身を寄せてきた。
強がってばかりいるくせに、ちょっとしたことですぐ落ち込んでしまう彼は本当に愛おしい。
「スカイワープがよぉ、なんだかんだ言ってきてうるせぇから撃ったんだよ」
頷いて先を促す。
「そしたら、サンダークラッカーのやつが俺が悪いって言うんだ。あいつスカイワープのことばかり庇いやがって」
俺の言い分なんか聞きやしねぇ、と肩を落としたスタースクリームは苛立ったような息を吐いた。
メガトロンに何かいわれたのかと思ったが、スタースクリームは仲間はずれにされたような気がして寂しがっているだけだった。
ちょっとおかしくて笑いが漏れそうになったが、慌てて頬を引き締める。
何笑っていやがる、と八つ当たりされたら堪らない。
黙ったまま自分より小さな身体を見下ろす。
翼に輝くエンブレムがこんなに近くにいる彼を遠くへと引き離す。
昔のことを思ってもどうにもならないが、それでもついあの頃のことを考えてしまう。 いつまでもこのままであれ、と願った日々はあまりに遠い。
流れた時間は切ないほど広く深い溝を作った。一度は同じ岸に立ったが、渡った溝を越えることはもう出来ない。
スタースクリームを引き寄せると驚いたように身じろぎしたが、すぐに大人しく身体をもたせかけてくる。
警戒を解いたその身体を、このまま攫ってしまいたい衝動にかられる。
どこか遠くへ、デストロンもサイバトロンもない、遠くへと逃げてしまいたい。
スカイファイアーは溜め息を吐いて緩く頭を振った。
訝しげに見上げてきた彼の目はどこまでも赤く、うつりこむ空の澄んだ青さえも赤に染まってしまう。
「スタースクリーム」
口にした名前は轟音にかき消された。
驚いて見上げた空に、黒と紫の、そして空に融け込みそうな水色の戦闘機。
「スタースクリーム、帰るぞ」
トランスフォームして降りてきたスカイワープが少しばつの悪そうな顔で声をかける。 続いて降りてきたサンダークラッカーは、言い争っている二人を横目にスカイファイアーの方を見た。
「お前と一緒だったのか」
サンダークラッカーの顔に一瞬なにかが浮かぶが、スカイファイアーが見極める暇もなくそれは消えた。
「メガトロン様も気にしてるし、帰るぞ」
機嫌をようやく直したらしいスタースクリームは、サンダークラッカーの言葉を聞いて少し嬉しそうな顔をした。
もう大丈夫だな、と安心したが、別れるのはつらい。
いつ会えるともしれないし、次会うときは戦いの中かもしれない。
「じゃあな、スカイファイアー」
かけられた言葉さえ、飛び去る三人のエンジン音に吹き飛ばされてしまった。
あっという間に小さくなっていく三機を見送った後、ゆっくり基地へ向かって飛び立つ。
空は相変わらず澄んでいるが、どことなく精細を欠いて見えた。
*2008/08/22 前ブログより転載・加筆修正
*2008/11/24 加筆修正