「いつまで閉じ込めておけるんだろうな」
突然来たと思えば、ストッケードは囁くようにそんなことを言う。ペイロードは目を閉じたまま、格子の向こうの声に意識を向けた。
「あんたはこうしてここに閉じ込められてるわけだし、他の連中と連絡も取れやしないし。外で何が起きているか、何にもわかりゃしない」
言いながらストッケードはがつりと音を立てて壁に背中を預ける。ゆっくりと目を開いたペイロードは、そのままずるずると腰を下ろす影を眺めた。格子を挟んで同じ格好か。面白がるように細められた目を、俯くストッケードは見なかった。
「そうだろ」
くぐもった声が力なく響く。冷たい牢には似合いの響きだが、いつものストッケードらしくない。まるで立場が逆転したような、とペイロードは目を細めた。どんな顔をしているのか。俯いた顔をもし覗けたとしても、その表情はバイザーとマスクでがっしりと隠されているに違いない。
そう思った瞬間浮かんできた考えにぞくりと身体を震わせて、ペイロードは小さく笑った。
もしもストッケードの側に膝をついて、その顔をのぞき込めるなら。俯いたままの顔を上げさせて、上手く隠したつもりの感情を暴いてやろう。バイザーもマスクも、引き剥がすのは簡単だ。今の彼はなんだか弱っているような様子であるし、引き倒して押さえ込んでしまえば抵抗も大した問題にはならない。よほど暴れるようならば、隠した爪で確実に捕らえてしまえば良いことだ。
抵抗してくれる方が面白い。雪辱を果たすにしても、あまりに簡単に終わってしまってはつまらない。
いっそ、今この格子を……と思ったところでペイロードはその想像を終わらせた。残念だが、一時の楽しみに流されてはいけない。瞬いた目の奥に、嗜虐的な色が沈んでいく。その光も、ストッケードは見ていなかった。
「何をそう不安がる」
ペイロードは格子の向こうに声をかけた。そう大きな声を出したつもりはなかったが、囁きですら響くここでははっきりと通る。間違いなく聞こえたはずだのに、ストッケードは身じろぎもしない。
少し考えて、ペイロードは立ち上がった。
格子に身体の触れるぎりぎりの所に立つと、格子を構成するエネルギーが脅すようにバチバチと騒ぐ。その音にようやく、ストッケードは顔を上げてペイロードを見た。
「いつまで閉じ込めておけるんだ?」
問いが繰り返される。ペイロードは目をそらさなかった。ストッケードの表情を隠した顔をじっと見つめる。そして、その声に隠れた感情に耳を澄ませた。
「いつまで、俺は」
ストッケードは言葉を切ったきり、続けることはなかった。
閉じ込めてはおけないさ、とペイロードは声に出さずに答えた。閉じ込められてはいないのだから。ただ、時を待っているだけだ。
ここから出たら。ストッケードとは再び決着をつけることになるだろう。その時には、全てを暴いてやろう。腕の中に閉じ込めて、ゆっくりと。
ペイロードは一歩格子から退いた。それを合図に、ストッケードも立ち上がる。視線をそらしたのはどちらが先だったのかわからない。別れの言葉を言い合う仲でもないのだ、互いに背を向けてしまえばそれで終わりだった。
*2014/09/15