midair





 息ができない、時々、苦しくて苦しくてたまらないんです。
 そう訴えると、スカイワープは一瞬動きを止めた後黙って頷いた。向けられた視線がダイブボムが続けるのをじっと待っている。
 僅かに空気が強ばっているように思えるのは、自分が緊張しているだけなのか。我ながら無様に、喘ぐように息を吸うと、こちらを見る鋭く輝く目が少しだけ困ったように歪んだ。
 ダイブボムはその目を見上げて安堵した。蔑みも哀れみもそこには見つからないことに、心底から安堵した。
「どこか悪いんだと思いますか?」
 その言葉を待っていたかのように、スカイワープは手を伸ばしてダイブボムの身体に触れた。頭、肩、胸、腹、背中……そして翼に。軽く当てては何かを確かめるように僅かに探る動きがくすぐったい。
 翼から手が離れる前ぽんぽんっと叩かれたのが合図のように、緊張していた身体から力が抜ける。ふうっとついた溜息にスカイワープが笑ったのが分かった。
「どこも悪くはなさそうだ」
 身体は、と付け加えるとスカイワープはそっと指先をダイブボムの胸にあてた。珍しく次の言葉をためらうような様子の口元。ダイブボムはスカイワープの言葉を待ちながら、ふと胸に触れる指先に目をやった。
 その瞬間ぐらりと視界が揺れて、支えを求めた手がスカイワープの腕を掴む。いや、スカイワープの腕がつかまえてくれたのかもしれない。
「ダイブボム」
 力強い手がしっかりと身体を支えてくれている。ああ、胸が痛い。また息ができない。胸を押さえて息苦しさにもがきつつ、ダイブボムはひたすらにその手に縋った。
「大丈夫だ、力を抜け」
 優しいその声が遠い。それが不安でたまらない。スカイワープ、と呼びたかったが胸につかえたものが音を作らせない。せめて、と縋りつく指も弱々しい力しか入らない。
 どうか手を離さないで欲しい。
 声にならない懇願を聞き取ってくれたのか、身体を支える手に一層の力が込められた。
「心配するな」



 どれくらい時間が経ったか、ようやく落ち着きを取り戻してダイブボムは頭を上げた。
「スカイワープ?」
 呼べばいつも彼は答えてくれる。今回もそうであることに安心して、ようやく身体を離した。一人で立てることを確認するように、背に添えられた手が気恥ずかしい。
「もう、大丈夫です」
「いつもこうか?」
 スカイワープに真剣な口調で尋ねられ、ダイブボムは小さく頷いた。
「気づかなくて悪かった」
「!そんな……」
「一人で全部抱え込むな。そんな息ができなくなるほど、何もかも抱え込む必要はない」
 スカイワープの目が揺れている。目を合わせてダイブボムは息をのんだ。そこにある感情を知っている。かつて常に自身の中にあった、でもスカイワープが抱くとは思ってもみなかったもの。
 瞬きと同時にスカイワープの目はいつもの鋭さを取り戻した。しかし、露わになった感情の名残が僅かに残っているのを、ダイブボムは見た。
「お前が……」
 スカイワープがためらう。ダイブボムは思わず手を伸ばして、いつも自分を支えてくれる腕を取った。
「……お前がいなくなるのが怖い」
 ダイブボムの手にスカイワープの手が重ねられる。大きな手だ。
「いなくなりませんよ」
「……いつか……あいつに連れて行かれるような気がして」
 ああ、ダイブボムは妙に穏やかな気分で内心呟いた。ああ、そうなのかもしれない、でも、連れて行かれるのではなく……
「今も、どこかであの人に付いていきたかったと思っているかもしれません」
 スカイワープの手に力がこもる。
 ダイブボムはようやくわかった。身体はどこも悪くない、ただ、あの人がいないから。世界の全てといってもよかった存在を失って、取り残されて。
「あの人に生かされて、あなたに生かされて、それで今こうして」
 もう孤独ではない。だから、余計に失うのが怖い。
「俺だって、あなたがいなくなるのが怖い。あなたまでいなくなったら、本当に、息ができなくなる」
 言いたいことはまだたくさんあったが、ダイブボムにはそれ以上続けられなかった。手が離れていくのが、知らぬうちに手を離してしまうかもしれないのが怖くて、何も言えずにスカイワープの手を握る。
 抱え込んでいたんじゃない、隠していたんだ。スカイワープに見せるには、あまりに重くて醜いものだから。
 すみません、と呟いた言葉一つだけではとても足りない。分かっていたが、ダイブボムはそれ以外の言葉を知らず、痛いくらい手に力を込めた。
 スカイワープは何も言わなかったが、ダイブボムは決してこの手がふりほどかれないことを知っていた。




2014/08/06