midair





「何でお前なんだ」
 そう目の前の男にぶつけた言葉には、自分でも嫌になるくらい色々な感情が滲んでいた。
「じゃあ誰なら良かったんだ?」
 軽い調子で、でも嫌味を込めた言葉が返ってくる。黙って睨みつけるサンダークラッカーをドレッドウィングはかつてと少しも変わらぬ様子で見返した。
「……お前以外なら」
 サンダークラッカーにふん、とドレッドウィングは肩を竦め、透けた自分の身体を見下ろした。
「俺だってお前のところになんか」
 そのまますっとドレッドウィングは姿を消したが、サンダークラッカーはもう驚きもしなかった。

 幾度も彼が姿を消すところを見れば慣れもする。
 最初にドレッドウィングが現れた時にはぞっとしたが。何が起きているのか分からないまま、有り得ないと心の中で叫びつつ身構えたサンダークラッカーを、彼は面白くなさそうに突き抜けたのだ。サンダークラッカーが身体を貫いた何とも言えない冷気に何も言えないでいると、ドレッドウィングは少しだけ機嫌を良くしたらしかった。
 その後すぐ彼は姿を消し、サンダークラッカーは慌ててスタースクリームの下に走った。どうやってか還ってきた反逆者が彼に何かするのでは、とサンダークラッカーは恐れたが、スタースクリームにはドレッドウィングの姿が見えていないらしかった。
 ドレッドウィングがどうやら自分にしか見えないらしい、と気付いたサンダークラッカーはなんとかその場を取り繕って自室へ戻った。スタースクリームに何らかの危機が及ぶことを恐れるあまり、自分が幻覚を見始めたのかと疑ったのだ。頭を抱えた彼の前に扉を突き抜けて現れたドレッドウィングは、あまりにもはっきりした幻影だった。
 自分を疑いつつドレッドウィングと話してみた結果、どうやら彼は幻影ではないらしく、サンダークラッカーは自分の頭がどうかしたわけでもないことを確認してひとまず安堵した。
 しかし、幻影でないならないで大問題である。今のところサンダークラッカーにしか見えず、何か直接的危害を加えてくることも出来ないようなので無視していればさほど影響はないが、いつまでもそうだとは限らない。こちらに干渉できる力を取り戻すようなことがあれば大変だ。
 だが、ドレッドウィング自身どうしてこうなったのかは知らないと言う以上、出来ることはこのすぐ姿を消す半透明の反逆者を見張っておくくらいだった。
 ドレッドウィングを見張るのはそう難しいことではないとすぐにわかった。ふてくされて姿を消す時以外は大抵サンダークラッカーの側に居るし、そうでなければスタースクリームのところで機嫌を悪くしているかだ。サンダークラッカーがスタースクリームと話している時、ドレッドウィングは猛烈に苛々した様子を隠そうともしない。四六時中彼に引っ付かれてうんざりしているサンダークラッカーにとってはそれが面白くて仕方なく、同時に密かな優越をも感じていた。

 僅かに室内の空気がざわめくのを感じて、サンダークラッカーは振り返った。覚えたくもないが、ドレッドウィングの気配は特徴的すぎるのだ。
 背後に立ったドレッドウィングが目を上げ、視線がぶつかる。いつもはドレッドウィングがすぐに逸らすのに彼はそうせず、サンダークラッカーも淡く光る一つ目を覗き込んでいた。身体が透けているからか、眩しいくらいだった目も光量を落としている。
「何で、お前は戻ってきた?」
 吸い込まれるような感覚の中で、サンダークラッカーは呟いた。
「何でお前が、だろ」
 少し間を置いてドレッドウィングが返す。同時に瞬いた光に、サンダークラッカーのぼんやりとしていた意識がはっと覚める。
「あいつの方が執念深そうだしな」
 彼の言葉はサンダークラッカーに確かに動揺を与えた。それを見届けると、ドレッドウィングは背を向けた。
「俺だって言いたい、何でお前なんだ? 俺がそこにいるはずだったのに。スタースクリームは今も俺を見ない」
 サンダークラッカーは何も言えなかった。考えてみればドレッドウィングとまともに話したことがあっただろうか。彼が居た時でさえそうだったのに、今更何を言えばいい? 何も知らないのに。
 けれど、ドレッドウィングだって何も知らない。お互い何も知らないまま、不満をぶつけ合っているだけだ。
 ドレッドウィングは振り返らず、サンダークラッカーも何も言わなかった。
 一度はもうどうにもならないところまでいってしまった。ディセプティコンは二つに割れ、ドレッドウィングは代償を払った。もう終わってしまったことだ。
 彼と向き合う必要があるのか? かつてしなかった努力を今する必要があるのだろうか。サンダークラッカーには分からなかった。




*2012/9/15