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ようやくの休息だというのにゆっくり休めもしない。
苛立ちを露わに目を開けたペイロードに、側に居たドローンが一瞬怯んだ様子をみせた。だがすぐにそのドローンも近付いてくる騒々しい足音に気付いたらしい。エネルギーの補給状況を確認し、ペイロードに一つ頷く。
頷き返して、ペイロードはコードを引き抜いた。立ちあがったのと同時に扉が開き、ドレッドウィングが入ってきた。
「なんだ、休んでたのか」
「さっき帰ってきたばかりだ。何か急用か」
睨みつけたところで何か感じるような相手ではない。ドレッドウィングはペイロードの後ろに控えていたドローンに外せ、と軽く手を振った。ペイロードに視線を向けた後、ドローンは出て行く。
それを見送って、ドレッドウィングはペイロードの側に寄ってきた。
「ベータはお前に似て察しが悪いな」
「アルファもお前に似て役立たずだ」
すかさず言い返したペイロードにドレッドウィングは不機嫌そうに唸った。何か言いたそうにきゅっと目が細められたが、ドレッドウィングは垂れていたコードを乱暴に払っただけだった。そしてそのまま黙ってしまう。
いつものように下らない話に付き合わされるのだとばかり思っていたペイロードは、次にどうすべきか迷った。ドレッドウィングが勝手に話してくるならそれを適当に聞いていればいいが、今日はそうではないらしい。
このまま黙らせておくというのも良い選択肢に思えた。しかし、少しばかりドレッドウィングの様子が気になって、ペイロードは内心面倒だとも思いつつ口を開いた。
「それで? ドローンに文句を付けに来た訳じゃないんだろう。さっさと言え、俺も暇じゃないんだ」
促すとドレッドウィングは少し驚いたようにペイロードを見た。目があった時さっと走った色にペイロードは調子づかせたかと後悔しかけたが、ドレッドウィングの声にはホッとしたような響きがあった。
「ラムジェットの奴がまた暴走しそうでな」
またか、と言い掛けてペイロードは言葉を呑み込んだ。
ドレッドウィングもラムジェットも一人でも十分にトラブルを引き起こしてくれるが、二人がぶつかると事態はさらに面倒なことになる。しかもそれがしょっちゅうとなると、またか、ではすまない。
「好きにさせろ、止めるだけ時間の無駄だ」
余計な内輪揉めに巻き込まれて自分の任務を滞らせるのはごめんだ。翼持ちは翼持ち同士どうにか上手くやればいい。
ペイロードはそう思いつつ、不機嫌なドレッドウィングの顔を眺めた。
「あいつだけならな。一人で行くってんなら止めやしないが、ドローンを貸せと言ってきてるから問題なんだ」
ドレッドウィングは苛立ったように肩を震わせた。
「どうせまたストレス解消にドローンを破壊するつもりだ。あいつのあの癖どうにかならないのか?」
「そうだとは限らないだろう」
「そうに決まってる」
「だとしても、俺に言ってどうするんだ」
言い返すとドレッドウィングはまた黙り込んだ。今度こそ関わりたくない、とペイロードは彼の脇を抜けて行こうとした。
ラムジェットはドローンと同じ姿をしている者の話など聞かないだろう。オリジナルであっても関係なく。
ラムジェットが自分達を見下しているのをペイロードは知っていたが、一々突っかかるほどのことではないと思っていた。任務に支障が出ることであればどうにかするが、態度くらいなら無視すればすむことだ。地上では翼は役に立たないし、ペイロードは自らの任務に誇りを持っていた。
ペイロードと違ってドレッドウィングはラムジェットと居る機会も多いから、無視をするのにも限界があるのだろう。それに、ドレッドウィングの我慢はほんの一瞬のものだ。
そう思ってから、ペイロードはドレッドウィングを振り返った。
「ドローンを惜しんでお前が墜とされないようにな。俺達の手には負えない奴だ、好きにさせておけ」
折角の忠告を聞いたのか聞かないのか、ペイロードのボディをドレッドウィングの翼が乱暴に掠める。さっきよりも一層騒々しい音を立てながら去っていく背中を見つつ、ペイロードはやれやれと溜息をついた。
心底巻き込まれたくないが、余計な仕事が増える前にラムジェットとドレッドウィングを引き離さなければならないだろう。ゆっくり休めるのはもうしばらく後になりそうだ。
*2012/08/08