midair





 辺りに気を配りつつ、クロッカーは打ち棄てられた街を歩いていた。
 誰かが潜めるだけの物陰はたくさんあったが、動いているのはクロッカーだけのようだった。
 敵のでも味方のでも、何か痕跡がないだろうかとあちこち見回して、もう随分時間が経った気がする。
 先端を吹き飛ばされ、残った部分も傾きかけた塔の下で彼は立ち止まった。
 見上げてから左右に視線を巡らせ、少しの逡巡の後傷だらけの壁に足をかける。二三度足場を確かめてぐっと体を引き上げ、その勢いのまま上へと飛び上がって、クロッカーは上手いこと塔の上に体を落ち着けた。
 破壊された街の向こう、ここから見えるどこにもかつての面影は残っていない。
 傷付いてめくれ上がった地面は痛々しかった。あの滑らかな道が懐かしい。
 皆どこへ行ってしまっただろう、とクロッカーは度々思い、その度スパークが引き攣るように痛むのだった。
 スパークの奥深く、彼の願いが眠り続けている。この戦いが終わり平和が戻ってくるその日を、良き時の夢を見ながら待っているのだ。
 彼の戻る場所はレース場以外有り得なかった。レースが彼の全てだった。
 あの音を感触を興奮を今でもはっきりと思い出せるのに、目の前の現実にそれが過去のものであることを思い知らされる。
 今では目を閉じた一瞬だけしか戻れない。
 散り散りになった仲間達の行方はわからない。あちこちにあったレース場もほとんどが無事とは言えないだろう。
 戦いが始まって、レースが無くなって。あの場所では皆同じレーサーとして存在していたのに、何が自分達を二つに分けてしまったのか。
 彼は荒れた地平に目を向け、どこまでも続く道を思い描いた。皆でスピードを競い、技を競いながら走る道を。
 この状況下でそんな夢を抱くことを、もしかしたら咎められるかもしれない。
 それでも、いつかまた一つになれることを信じていなければ、とてもやりきれない。
 きっといつか、長く美しい道を皆で走れる日が来る。
 そんな希望があるから、レーサーとしての彼はその時を待っていることができる。
 気配の無い静かな街で、クロッカーは一人いつかの夢を見ていた。




*2011/12/20