midair





 いつの間にか季節は移り、冬が来ようとしている。
 その変化をトレインボット達に実感させるのは、寒くなっていくにつれ陽気になるユキカゼだった。
 口数が増え、よく笑う。そんなユキカゼの態度をショウキは咎めなかった。
 それは任務の遂行になんら影響を与えるものではなかったし、注意が散漫になっているわけでもない。
 リーダーとして、兄として、ショウキは年若い彼が任務のために色々なことを我慢しているのをよく知っていた。それに、メンバーの誰もがユキカゼが年相応の振る舞いを見せるのを微笑ましく思ってくれているらしい。
 子ども扱いをユキカゼは何よりも怒るが、トレインボットの中で彼はやっぱりまだ子どもみたいなものだった。ショウキ自身、ユキカゼをいつまでも小さい弟のように思ってしまうせいで、時々彼の大人びた言動に驚かされる。
 そのユキカゼは今、ゲツエイを相手に何やら楽しそうに話していた。
 早く雪が降れば良いのに、そうしたらあれをしたいこれをしたい、とユキカゼは待ち遠しそうな顔で言う。
 モニターを眺める振りで後ろを伺っていたショウキは、やっぱりまだまだ子どもだ、と笑いを噛み殺した。
 ゲツエイが眠そうなのは相変わらずだが、相槌を打ちつつ真面目に相手をしてくれているらしい。
 雪合戦くらいなら付き合おう、という彼の言葉にショウキは思わず口元が緩んだ。
「楽しそうじゃないか」
 突然覗き込まれて、ショウキは驚いて仰け反った。いつの間にか隣に立っていたカエンが、にやっと悪戯っぽく笑う。
「俺がいない間に何か楽しいことでもあったか?」
「別に」
 誤魔化すように咳払いしたショウキに少し笑い、カエンは口調を改めた。
「異常なし。スイケンと交代してきた」
「ご苦労様、少し休んでくれ」
 ああ、と椅子に肘を乗せて凭れ、カエンはそのまま黙り込んだ。
 怪訝に思ってショウキが振り返ると、カエンは向こうで話しているユキカゼ達を眺めているようだった。
「どうかしたか?」
 声を掛けると、うん、という生返事。
「カエン?」
「随分楽しそうじゃないか」
 拗ねたような調子で言って、カエンはショウキを睨んだ。睨まれる理由が分からない。困惑してショウキは尋ねた。
「何で睨むんだ」
 答えずにカエンは肩を竦める。兄のような存在であるけれど、たまにこうやって子どもじみたところを覗かせる。ショウキは時々カエンをどうやって扱うべきか分からなかった。
 ショウキが何かする前に、カエンはずんずんユキカゼ達の方へと歩いていった。
 そして、こちらに背を向けて座っているゲツエイの頭をこつんとやる。うっ、と小さく呻いたゲツエイをカエンはそのまま押さえ込んでしまった。
「俺も混ぜてくれ」
「強引だな、カエン」
 眠そうな声でゲツエイが抵抗し、ショウキは浮かせかけた腰を戻した。
「楽しい相談だろ?」
 びっくりした顔をしていたユキカゼがちらりとショウキを見る。肩を竦めた兄に助け船が期待できないことを悟ると、ユキカゼは微かに苦笑した。
「雪が降ったら何をしようかって話してた」
「月明かりに浮かぶ雪は綺麗だ」
 ゲツエイがくぐもった声で言い、カエンの腕を押し退けた。
「夜ならゲツエイも元気だしね」
 ユキカゼが笑う。
「ふーん、だが雪の中で走る俺の方が格好いいぞ」
 踏ん反り返ったカエンにショウキは思わず吹き出した。唐突で強引すぎる。変な対抗意識を持たれてゲツエイも困惑しているじゃないか。
 ユキカゼの笑顔も引き攣ってしまっているが、カエンはご機嫌だ。
「カエンも懲りないな」
 ショウキの所に逃げてきたゲツエイが、呆れたようにぽつりと言う。
「助けてやらなくて良いのか?」
「カエンの構いたがりが始まっただけだからな。ユキカゼも慣れないと」
 大変だな、と呟いてゲツエイは一つ欠伸をする。慌てた顔のユキカゼにショウキは笑って手を振った。




*2011/11/30