midair





 今日も何も変わらない。
 窓の下を通り過ぎていく背中を見送りながら、スカイファイアーは溜息とも苦笑ともとれない息を吐き出した。
 いつもの時間、いつもの歩調、そしてそれを見ているだけの自分。
 彼について知っていることは沢山ある。ちょっと調べれば情報は芋づる式に集まってきた。
 でも結局、未だに何も知らないのかもしれない。スカイファイアーの知っているのは、彼のピンと伸びた背中だけ。ここからでは、彼の顔だってよく見えないのだ。
 心の中でしか呼んだことのない名前を声に出してみようか。何でもないことだ、ただ声を掛ければいいだけのこと。
 それが不思議と出来なくて、遠ざかっていく背中にお門違いの恨めしい視線を向けている。
 知り合いになりたい。話してみたい。意識しすぎて実行できない。
 彼の姿はもう見えなかった。いつも、真っ直ぐ前を向いて決して歩調を緩めずに歩いていくのだ。
 スカイファイアーは彼が振り向いたり、足を止めたりするところを見たことがなかった。それで余計に声が掛けづらいんだ、と自分に言い訳をしたこともある。
 声を掛けても彼がそのまま歩いていってしまったらどうしよう。多分彼は振り向いてくれるだろう、そんなに冷たくはないはずだ。
 でも。もしかしたら。そんなことばかりで頭をいっぱいにして、何一つ行動に移せない。新しいことに飛び込んでいくのは好きなはずなのに、同僚に声の一つも掛けられないとは。
 スカイファイアーは名残惜しげに再び窓の外に目を遣った。いつか、いつか。そう思いながらもうしばらくの間は、ここから眺めているだけだろう。
 臆病な自分を笑って、スカイファイアーはゆっくり窓に背を向けた。




*2011/10/19