触れあっているわけではないのに、じわりと身体の片側が熱いような気がした。
そんなはずはない、こんなに離れているんだから。気のせいだとサイドウェイズはぎこちなく身体を震わせた。
生暖かい空気が少し動いただけで微かな温もりは消えない。
ちらりと横を見て、サイドウェイズはデモリッシャーとの距離を目で測った。やっぱり互いの距離はそれなりにある。すごく離れているわけでもないが、相手の熱を感じるほど近くはない。
どこかおかしいのだろうか。熱を感じる方の腕をサイドウェイズは困ったようにさすった。挙動不審に思われたくなかったけれど、溜まっていく一方の温かさに他にどうしようもなかったのだ。
まるで自分を抱くような格好をして、彼はもう一度そっとデモリッシャーの方を見た。
ビークルモードですら大きくて目立つデモリッシャーがロボットモードをとることは少ない。人間に目撃されればされるだけ、オートボット達に見つかるリスクも高くなる。
潜むこと、時を待つこと。デモリッシャーはそれを一番に考えて行動してきたし、サイドウェイズも異論はなかった。
だからデモリッシャーが何故今夜ロボットモードに戻ったのか、サイドウェイズにはよくわからなかった。誰か、おそらくサウンドウェーブから何か連絡があったことと関係しているのかもしれないし、月が分厚い雲に覆われているからかもしれない。
何にせよ、デモリッシャーは今夜は油圧ショベルではない。
ロボットモードのデモリッシャーを見るのはサイドウェイズにとって密かな楽しみだった。
彼の大きくて滑らかで、強さに満ちたボディはサイドウェイズにはどう頑張っても手に入れられないものだ。
緩く垂らされたデモリッシャーの腕の影に小柄な自分の身体が収まってしまうのを見る度に、サイドウェイズは堂々巡りの劣等感と安心感を味わった。己の無力さと守られている安心と、守られるような自分の無力さと……そんなことをぐるぐる考えている自分をデモリッシャーは知らないだろう。
今夜は闇が濃くて影が見分けにくい。肩を抱えていた腕を滑り落としてサイドウェイズは地面に爪を立てた。
そこに落ちているはずの影をなぞって爪が動く。ざりっとこすれた音にデモリッシャーが動いた。
「どうした」
心持ち抑えられた声。戦いの時の、空気を震わせる響きは無い。
「……別に」
サイドウェイズには他に答えようが無かった。デモリッシャーがじっとこちらを見ているのがわかる。意識するともう動けなかった。
「怪我でもしたのか」
金属の擦れる重い音とタイヤが転がる振動にサイドウェイズははっと顔を上げた。
「い、いや、本当に何でもない」
慌てて否定する間にデモリッシャーはすぐ隣まで来ていた。彼にしてみれば一歩にも満たない移動距離だったかもしれない。
離れていた気がしたのに、とサイドウェイズは内心でまた小さな劣等感が疼くのを感じた。
「今無理をするなよ」
目が合う。サイドウェイズはぐっと息を詰めてなんとか頷いた。
デモリッシャーは確かめるような視線をしばらく離さなかった。
ロボットモードでは目が合うんだ。そんな当たり前のことを今更のように思い出して、サイドウェイズはこちこちになった身体を笑った。
緊張するようなことではない、目があって死ぬわけじゃないんだし。
デモリッシャーを見上げ、サイドウェイズは溜息を一つついた。
今度はごく近くにある巨体に背中を預けるように座り直す。こつりと触れ合った背中がじわりと熱くなる。
デモリッシャーが首を動かす気配を頭上に感じつつ、サイドウェイズは開き直ったように庇護者に身体を凭せかけていた。
*2011/07/23