「おい、来たぞ」
目を細めて遠くを眺めていたラムジェットが言った。
見張ることなどとうの昔に放棄したスラストは欠伸を一つして相槌に代えた。
「ダージが言った通り、随分早いな」
ラムジェットは面白がるような調子で言う。
「熱心なこった。胸焼けしそうだぜ」
肩を竦め、スラストは立ちあがってラムジェットが見ている方に視線を向けた。
空を行く彼らからしてみると、その救急車のスピードは幾分焦れったい。
ダージもこんな風に彼が来るのを待ってるんだろうか。だんだん近付いてくる彼を、どんな気持ちで待つのか。
そう考えて、スラストは顔を顰めた。あまり想像したくない。
少なくとも、自分はそんなダージを知らなくていいし、知りたくない。
二人の目の前で停まった救急車は、変形すると戸惑いも露わに彼らを見つめた。
同時に彼の不安も感じて、スラストはラムジェットを小突いた。
「あのな、ダージだけど」
「どうかしたの?」
狼狽えた声。
この救助員に抱いていた冷静なイメージには似合わないな、とスラストは思った。
いや、恋人のこととなれば狼狽えもするか。
恋人。その言葉を使ってしまってから、スラストはなんだかげっそりした。
「大した怪我じゃないんだが、いつもより周りの目が多いから基地を出られなくてな。メガトロン様に休むよう言われてるのに外に出てく訳にもいかないだろ?」
「……そう」
呟いて、ファーストエイドは地面に視線を落とした。
寂しい、と大きく書いてある背中に隣でラムジェットが肩を竦めた。
どうする?という視線にスラストは首を振った。どうしようもない。どうにかできるのはダージだけだ。
しょげきったサイバトロンの扱い方など知っているはずもない。
ラムジェットが参ったなという顔で居心地悪そうにしているが、多分自分も似たような顔をしてるんだろうな、とスラストは溜息をついた。
その溜息がもう一つの溜息と重なって、顔をあげたファーストエイドと目が合った。
「悪いな」
スラストがとっさに口にした言葉に、ファーストエイドが首を振る。
「もう、行くよ。わざわざありがとう。ダージに……よろしく」
頷いた二人に手を振って、救急車が来た道を戻っていく。
ゆっくりと遠ざかっていく姿はやっぱり寂しそうだ。
「なんかなぁ……」
ぶるっと身体を震わせてラムジェットが呻いた。
「俺達はとりあえずダージをぶん殴るべきだと思うな」
「同感だ」
スラストの提案にラムジェットが拳を撫でる。
「あいつには大いに反省してもらわないと」
*2010/10/16