暗闇にくるまれて、ドロップキックはその奥を見ようと目を凝らした。
何も無いように見えるその向こうに、きっと何かがある。
でなければ、この激しさを内包した優しさはどこから来るのだ。
何かが動いた、と思うのと同時にさっと射してきた光に彼は目を細めた。
二つ並んだ光が合図をするかのように瞬く。暗闇を裂いて、暗闇を連れて。
「ドロップキック?」
近づいてきた光が静かな声で問う。
うずくまる彼を一瞬光が照らし、数秒後にはトランスフォームしたペイロードが立っていた。
「やっぱりお前か。先に帰ったはずでは?」
ドロップキックは黙って立ち上がった。
ペイロードの雄弁な目が、何をしていた、と尋ねている。
ドローン達と同じでいて、明らかに違う。先ほどまで一緒だった彼らのことを思い出してドロップキックはそう思った。
答えないままでいたら、ペイロードは肩を竦めて歩き出した。
寸前、行くぞ、と促される。ドロップキックは徐々に闇に紛れていく彼の背中をしばらく眺め、それからその後を追った。
ペイロードが歩くにしたがって、装甲がぶつかりあって小さな音を立てる。
任務から帰還したという疲れは微塵も感じられずに、少し汚れた装甲だけが普段との違いだった。
「ドロップキック」
唐突に名を呼ばれ、ドロップキックは少し足を速めて隣に並んだ。
「飽きてきたんじゃないだろうな」
「飽きて?」
聞き返すと、ペイロードはじろりとドロップキックを睨んだ。
彼の間近で見ると眩しいほどの目をドロップキックは見慣れていたが、睨まれて思わず体を引いてしまった。
「違うのか? ドローン達を先に返してこんなところで何をしていた。中途半端な仕事をする奴は信用を失う。戦闘に戻りたいなら手配してやるから」
正直にそう言え、そう言ってからペイロードは無言の圧力で答えを迫った。
「あんたを待ってただけだ。別に仕事がつまらないわけじゃない」
ペイロードは苛立ったように装甲をがちゃつかせた。
「待っていた、だと。時間を無駄にするな、そんな暇があったら基地でやるべきことを見つけろ」
「あらかたの雑用はドローン達がやってる。ドレッドウィングに報告を入れたらもう俺の仕事は終わりだったからな」
それは本当だった。ドローン達は戦闘でも雑用でもこなすから、たまに空いた時間もできる。
そうでなければ、ドロップキックだって基地に真っ直ぐ戻っている。
「何か用でもあったのか」
呆れたように溜息をついたペイロードの目から、それまでの責めるような色が消えた。
「いや。ただ一緒に戻ろうと」
「妙な奴だ。俺がここを通らなかったらどうする。そもそも、戻ってくるかどうかもわからないんだぞ」
ドロップキックは小さく笑った。
「わかるさ」
多くのディセプティコンは闇の中にありながらもドロップキックとは異質のものだったが、ペイロードは彼らとも、そしてドロップキックとも違った。
闇に融け込む身体と、闇を退けるほどの明るい目を持って、ペイロードはいつもドロップキックの前に立っている。
ドロップキックはその場所に追いつきたいわけでも追い抜かしたいわけでも、彼に導いて欲しいわけでもなかった。
ただ待っていようと思ったのと同じに、ただ一緒に居られればいい。
輸送部隊の一員であること、つまりペイロードの部下であることは今まで以上にドロップキックをディセプティコンという組織に縛り付けることだった。
いつでも引きちぎれる鎖ではあるが、鎖には違いない。
その微かな束縛を解くことは容易だ。だが今はこのままで構わない、そう思えた。
「俺はあんたの信用を失ったか?」
ペイロードは振り向いて、ドロップキックを見つめた。
「どうだか」
面白そうに揺れた目は今のところ嘘はついていなさそうだった。
*2010/08/05