アイアンハイドは女性のことを理解しているという自信があまり無かったが、とりわけ彼女のことは理解できなかった。
オートボットにいるどんな女性とも違っていて、それでいてディセプティコンの男達とはまた違う。
躊躇いがないと言えば嘘になる。
彼女の眼光はほとんど男以上に強かったが、それでもやっぱり体格から言えば女性なのだ。
男どもを殴り飛ばすようにはいかない。
大地を震わせて彼女が来る。
戦場の騒がしさを抜けて響いてきたその音に、アイアンハイドは深く息を吐いて拳を握りしめた。
地面を砕きつつ、ディセプティコンの一団を率いてフラクチャーが現れた。
待ち受けるオートボット達を見ても、その足取りは変わらず自信に満ちている。
彼女が短く何か言い、それを引き金にディセプティコン達が走り出した。
一気に膨れ上がった戦いの気配。
息が詰まりそうだと思いつつも、走り出せばその感覚はむしろ力をくれる。
「アイアンハイド!」
彼女の低い声が呼ぶ。
アイアンハイドは躊躇うな、と自分に言い聞かせた。
でもそれこそが、既に躊躇しているということなのかもしれなかった。
勢いを乗せた一撃を、フラクチャーは揺らぎもせずに受け止めた。
上げた腕の向こうから、彼女が笑いかけてくる。
アイアンハイドにではない。フラクチャーの笑いはどこへも向いていない、ただ笑っているだけだ。
「相変わらず、邪魔ばかりしてくれるな」
言葉と共に足が踏み出され、アイアンハイドは舌打ちをした。
つくづくやりにくい相手だ。
足場を失って倒れる前にフラクチャーを掴んで逆に地面に叩き付ける。
ぐっと呻いても彼女は笑みを消さなかった。
狂気じみた笑いがその口からもれて、アイアンハイドは顔を顰めた。
「これで終わりか?」
細めた目から溢れる光が毒々しいほどに赤い。
それに呑まれてしまったのがいけなかった。
腹にフラクチャーの足が当たったと思った次の瞬間、はね上げられて地面に叩き付けられる。
アイアンハイドが立ち上がった時、目の前には彼女ではなく別のディセプティコンがいた。
容赦なく降り注ぐ弾丸を避けながら周囲に目を走らせると、フラクチャーは半数ほどの仲間を連れて防壁を抜けようとしているところだった。
彼らは嘲笑を残して走り去る。
基地へ帰還するところを叩こうとした作戦は、失敗だったようだ。
「退くぞ!」
頻りに撃ってくる表情の乏しいディセプティコンを黙らせるのはそう難しくなかった。
分厚い装甲を突き破っての致命傷は与えられなかったが、動きさえとめれば今は構わない。
これ以上の戦いは無意味だ。何人かの負傷者だけで被害をくい止めねば。
撤退し始めた仲間に手を貸しつつアイアンハイドは腹立たしそうに唸った。
*2010/05/15