midair





 ブロウル達がこの地域で後始末をしているはずだ。
 そう思い出して、ペイロードは後続のドローン達に合図した。
 一緒に?と問う通信には、構わないと返す。
 彼らが制圧を終えたなら、もはやオートボットに抵抗する力は残されていないのと同じこと。
 仮に残党がいたとしても、ペイロードの行く手を阻むことは出来ないだろう。
 基地へ戻るドローン達を見送って走り出した道は、次第にがたがたと激しい振動を伝え始めた。
 少なくなった積み荷は任務成功の証だが、それを気分良く運べるのは平らな道の上だけで、こんな道の上では慎重にならざるを得ない。
 両側に広がる街だったものの残骸と、かつては名前を持っていたものたちの抜け殻の間を擦り抜けながら、ペイロードはその先にいるはずのブロウルに通信を入れた。
[真っ直ぐ来い。そこからだとそう遠くない]
 現在地を伝えると、簡潔な答えが返ってきた。
 ブロウルの無駄のないところは好もしい。戦闘を主たる任務としないペイロードはブロウルと親しく付き合ったことはなかったけれども、彼の印象は決して悪くなかった。
 信用に値する男だと、最初に思ったことは今も変わらない。


 しばらくして見えてきた急拵えの基地は小さなものだった。
 削られたオートボットのエンブレムと、少々乱暴に描かれたディセプティコンのエンブレムとが眼を惹く。
 吹き飛ばされて大きくなった入口からブロウルが姿を見せた。
「お前が来るとは聞いていなかったが」
 軽く挨拶を交わした後でブロウルが不思議そうに言い、僅かでも彼を驚かせたことにペイロードは気をよくした。
「ここにいると聞いていたのを途中で思い出してな。ついでに寄った」
「有り難い。移動前にエネルギーが欲しかったところだ。どうだ、急がないならお前も少し休んでいけ」
 それも悪くない。ドローンの動きはドレッドウィングが掴んでいるだろうし、スタースクリームへの報告もそう急ぐことではない。
「確かレッケージも一緒だな?」
「ああ。もうすぐ戻ってくるはずだ」
 内部はディセプティコンの蹂躙の後を留めたままだった。敵の残骸が隅に寄せられて小さな山を作っている。
 無造作に腰を下ろしたブロウルは、ペイロードの視線に気付いて低く笑った。
「レッケージだ。あいつも妙なところで綺麗好きだからな」
「構わなすぎるよりはいいだろう」
 ペイロードが答えるより先に冷めた声が響いた。
 光を背に浮かんだ細身のシルエットの中、熱を感じさせない赤い目が瞬く。
「久しぶりだな、ペイロード。エネルギーでも持ってきたか」
「随分遅いな。のんびり何してた」
 先ほどと同じくブロウルに返答を横取りされ、ペイロードは苦笑した。
 しかしレッケージはブロウルを無視してすたすた歩いてくる。
 ブロウルが唸るのさえ無視して手を伸ばしてきた彼に、ペイロードは笑いながらエネルギーを渡した。
 殺気に近いブロウルの不機嫌を何事も無いようにやり過ごせる人物はレッケージやスタースクリームくらいのものではないだろうか。
 ペイロードが笑っていられるのはその矛先が自分に向いていないからで、もしそうだったなら思わず拳くらいは握ってしまいそうだ。
 ブロウルにエネルギーを放ると、受け取って彼はほんの少しだけ不機嫌な顔を緩めた。
 ディセプティコンきっての破壊者達の間に挟まれて、ペイロードはその微妙な空気に再び苦笑した。


 二人のどちらがより強いか、という問題はディセプティコン達が好む話題だ。
 ブロウルの比類なき破壊力と、焔の如き怒りはオートボットのみならずディセプティコンをも恐れさせる。
 だが常に冷静で落ち着いてみえるレッケージの、冷酷で徹底した攻撃も恐れられている。
 議論は常に平行線で、どちらも自分の贔屓の勝ちを決して譲らない。
 ペイロードに言わせればそんな議論は時間の無駄でしかなかった。
 全てを焼き尽くす劫火か、全てを凍らせる絶対零度の冷たさか。
 囲むものの温度が違うだけで、結局のところその中心にあるものは同じなのだから、どちらが勝るか比べるのは無意味なことだ。
 それでも知りたいなら二人と同時に戦ってみればいい。
 しかし、と重くなってきた空気に溜息をついて彼は思った。
 この二人と一緒に行動しなければいけないドローン達には心底同情したくなる。




2010/05/09