midair





「レッケージ」
 仲間のものではない声にまだ眠りから覚めぬ身体が一瞬警戒する。
 だが直ぐにレッケージは現実へと戻り、目を開いた。
 破られた夢の中で久しぶりに感じた、あの遠い星の暗闇とは違う闇が目の前に広がっている。
 サイバトロンを思い出したのは自分がそこへ戻りたいと思っているからなのか。
 そうであろうとなかろうと、サイバトロンにはまだ戻れない。
 今、願うのはただ一つ。自分をこの状況に追いやったものへの復讐だ。
「レッケージ、明かりを点けてもいいかね?」
 足元から感情を感じさせぬ声がする。
 彼ら種族がもつ生温かく柔らかな身体を思い起こさせるような要素はそこにはない。
 目的のみに固執し、手段を選ばぬこの男を嫌う者も多いようだった。
 外見では服従の意を見せていても、時折表情に隠しきれぬ嫌悪の端が覗く。
 このちっぽけな人間達の関係は、レッケージに仲間達のことを思い起こさせた。
 とりわけ、あの狡猾な仮の首領のことを。
 スタースクリームのことを考えると、レッケージはいつも目の前が赤く染まるほどの憎しみが湧き上がってくるのを抑えることが出来なかった。
 ここを出る好機が訪れるのを、そしてスタースクリームがこの星に再び現れるのをレッケージは憎悪の中で待っている。
 彼が募りに募った憎しみを解き放つ時は、そう遠くないはずだった。
「レッケージ?」
 サラザーが僅かに苛立ちを滲ませた声で繰り返す。
 彼の傲慢な振る舞いをレッケージは許していた。今のところは。
 この人間を利用するのには多少の演技と辛抱が必要だ。
 だが時折どうにも許し難い愚かな振る舞いをしてくれるのには、かなりの忍耐が要った。
 馬鹿馬鹿しいコードネームを呼ばせるのをやめるのに、幾度その身体を裂いてやろうと思ったことだろう。
 レッケージが頷くと、サラザーはすっと片手を上げてぱちりと指を鳴らした。
 芝居がかった仕草はスタースクリームに似ている。
 暴れ出しそうになった怒りを抑えるためにレッケージは低く唸った。
 一斉に明かりが点けられ、足元の小さな影でしかなかったものがはっきりとサラザーの形をとる。
「気分はどうか」
 レッケージは固定された身体を鬱陶しげに揺すった。
 馬鹿げた質問だ。
「調子が良いようなら、少し外へ出てもらう。我々の研究にまた一役買ってもらいたい」
 サラザーの絶対的な優位を確信している喋り方はレッケージの神経に障った。
 物事の関係というものを、根拠のない優越と自信で凝り固まったサラザーは理解していない。
 目の前の相手と自分との力量を計れぬなど、戦いでは致命的なことだというのに。
 他の人間達は彼に大して嫌悪を抱きながらも、その力のせいでそれをおおっぴらに出来ないのかもしれない。
 だがそんな序列はちっぽけで弱い彼ら種族の中でしか通用しないもので、そんなもので自分を従えることができると思うのは愚かなことだ。
 レッケージが表面上人間共に協力するのはひとえにスタースクリームへの復讐の足がかりとするためだ。
 そして、仮の首領という地位に浮かれるスタースクリームを引きずり降ろすことのできる人物、真の首領たるメガトロンの居場所を見つけるために、彼は脆弱な檻の中で従順な振りをする。
 レッケージの嘲りも知らずサラザーは研究員を見上げて一つ頷いた。




*2010/03/28