すん、とスカイワープが鼻を蠢かした。
「こりゃ雨になるな」
照りつける太陽の眩しさに目を閉じ、そうしている内に眠くなりでもしたのかいつもよりのんびりした口調である。
「なんでわかるんだよ」
雲一つない空を見上げてサンダークラッカーが怪訝そうに言った。
海底基地からやや離れた洋上。
宙に浮かんでいるとは思えぬほど寛いだ格好で二人は非番の一日をのんびりと過ごしていた。
彼らの内のもう一人、スタースクリームは任務に就いている。スカイワープとサンダークラッカーは彼のぶうたれた顔をさんざん笑い、怒って銃を向けてきたところで基地を出て来た。
「わかるんだよ」
寝そべったスカイワープは簡単に答えた。
「ふうん」
こんな晴れてんのになぁ、とサンダークラッカーが呟くと、スカイワープはあからさまに優越感を滲ませた声で笑った。
「けど、雨になるぜ」
「ああそうかよ」
「信じてねえのか?賭けてもいいぜ?」
仰向けからくるりと身体を回して覗き込んできたスカイワープを見上げサンダークラッカーは首を振った。
「お前はすぐ賭ける賭けるってうるせえな。雨なんか降るかよ、こんな晴れてんのに」
「降るって言ってんだろ」
せっかくの晴天、せっかくの休みをサンダークラッカーはこんな議論で無駄にしたくなかった。
降るって言ったら降るんだ、と繰り返すスカイワープがひどく気に障る。
「しつこいな、馬鹿野郎。ちょっと黙ってろ」
手を伸ばしてぼこんと殴ると、スカイワープは吃驚したような顔をした。
「なにすんだ」
驚きが冷めると怒りがやってくる。
少し黙らせようと思っただけだったのに、スカイワープの導火線に火を点けてしまったことを悟ってサンダークラッカーはげんなりした。
「なあ何のつもりだよ?雨になるからそう言っただけだろうが」
自分が折れることで平和的に事態を収拾しようと一旦は思ったものの、スカイワープの言い方にむっとしてサンダークラッカーも負けじと同型機を睨み返した。
「だからそれがうるせえって言ってんだろ」
「うるせえのはお前だろ」
しばらくこのやりとりを繰り返した後で、スカイワープがついに手を出した。
頬を掠めた拳にサンダークラッカーもカッとなり──
「……あ?」
寸前で止められたサンダークラッカーの拳にスカイワープが首を傾げる。
サンダークラッカーは一瞬にして冷静になると、謝罪の言葉さえ口にしながら相手の翼を押さえていた手を離した。
「悪い、お前が合ってた」
訳が分からないという顔をしていたスカイワープは、ふいに吹き付けてきた風に笑い声を上げた。
「だろ?」
「お前の気付くのが早すぎる」
苦笑してサンダークラッカーは視線をスカイワープの後ろへ向けた。
遠くは真っ黒な雨雲で覆われ、この辺りはまだ晴れているというのに微かに雷も聞こえる。
「そっちが遅いんだよ」
「わかったよ、そうだなきっと。降られる前に帰ろうぜ」
サンダークラッカーはもうこれ以上喧嘩をする気にもならなかったのであっさりと折れてやった。
スカイワープは少し物足りなそうな顔をしていたが、サンダークラッカーが背中を押すと肩を竦めて動き出す。
まだ夕方というには早い時間だが、空は徐々に暗くなり始めていた。
そうスピードを出すことなくロボットモードで先を飛ぶスカイワープの後を追いながら、サンダークラッカーはなんだかおかしくなってくすくす笑った。
「ん?」
振り返ったスカイワープに何でもない、と手を振って彼はもう少しだけ笑う。
雨が降る、と言った時のスカイワープの自慢げなあの顔。
「なあスカイワープ」
「なんだよ」
「お前ってたまに可愛い顔するよな」
「はあ?何言ってんだ?」
後ろ向きのままで飛びながらスカイワープが顔を顰める。
サンダークラッカーは笑ってその鼻を軽く弾いた。
「だめだな、今はすげえ馬鹿面」
「おい喧嘩売ってんのか!?」
*2009/11/11