midair





 部屋に入ると、ドレッドウィングはドローン達に囲まれていた。
 無意識の防衛なのだろうか、とダイブボムは思う。それとも計算した上での行為なのか。
 静かに部屋に入ると、顔をあげたドローンの一人がダイブボムを探るような目で見た。
 微かな音を伴ってその目が眇められ、認識されたのだろう、すっと視線を外される。
 どうやら彼のきたことに気付いていないらしいドレッドウィングの後ろ姿を眺めながら、ダイブボムは自分と同じ姿をした者が沢山いる、というのが一体どんな気分なのか想像してみようとした。
 広がった想像にぞっとして彼は思わず苦笑した。
 自分のようなのが沢山居たら、ディセプティコンはオートボット達と戦うまでもなく壊滅するだろう。
 自嘲的な気分で早くも身体の回りに立ちこめ始めたガスを払う。
 基地も兵士達も満足に動けなくなるはずだ。自分で認めるのも嫌な話だが、考えればそういうことになる。
 もう少し近付こうかとも思ったがドレッドウィングに影響を与えるのを恐れてダイブボムはやめた。
 長年の内に覚えた人へ影響を与えぬギリギリのラインに立って声を掛けるタイミングを待つ。
 黙って待つのは得意だ。
 それに待って後に得るのが憐れみや嫌悪を含まない、ただ自分を、ダイブボムという者を見る眼差しであるのを思えば、なんの辛いこともない。
 ドローン達が時折身じろぎするのを目の端に捉えながら彼もまたぼんやりと考え事を始めた。
 こちらを向かぬドレッドウィングの頭を占めているのはこれからの情勢についてだろう。
 ただの"スタースクリーム"ではなく、"ロード"として彼が戻ってきた今、戦況は大きな転換期を迎えるはずだ。
 ドレッドウィングから聞いた話によると、メガトロンは死んだのだという。
 彼がオールスパークを追っていった地球という星で、大帝自身も、そして彼の忠実な部下達も人間という脆弱な生物に倒されたと。
 メガトロン亡き今、No.2の座に着いていたスタースクリームがその後を継ぐのは至極当然のことだ。
 そして、スタースクリームはすでに動いている。
 なんのために。推測するのは容易いことだ。
 ダイブボムは優秀な航空兵であり、戦術家である。その能力を活かす場所がないだけで。
 彼の考えるスタースクリームの動機は、"支配の確立"である。
 偉大なる前リーダーの影を払い、スタースクリーム自身の支配を絶対のものにするための行動。
 しかし彼が何をしようとしているのかはわからない。生き残りのオートボット達の殲滅?宇宙に散ったディセプティコン達の集結?
 末端に近い一兵士にその情報がはっきりと知らされるはずもなく、ましてやダイブボムには大きな作戦に加われぬ理由がある。それでも何か慌ただしい動きがあるのは間違いない。


 ドレッドウィング。
 ダイブボムと少し似ていて、でもまるで違う男。抱くのは僅かな親近感と多大なる憧れ。
 それでも彼はドレッドウィングの苛立ちや苦しみを最も理解できる一人だったかもしれない。
 性格からしてまるで違う二人であったが、報われぬ痛みをダイブボムは誰よりもよく知っている。
 生まれついての欠陥はどうすることも出来ない。もがき続けることに疲れた彼はその痛みを仕方のないこと、と受け入れ、諦めることで虚しい慰めを手に入れた。
 だがドレッドウィングは違う。
 彼に居場所を与え、虚しさから解放してくれたその人は、自分とは違うのだ。
 ドレッドウィングは諦めることなどしない精神の強さを持っている。
 そしてより上へ行くことの渇望も。
 ディセプティコンへの思いに裏打ちされたそれは評価されて然るべきなのに。
 自分を諦めたダイブボムはドレッドウィングに夢を託しているようなところがあった。
 だから彼はドレッドウィングが過小評価されているのではないかと密かに苛立っている。その力を証明する場も与えずに力量を測ることなどできようか。
 スタースクリームは、"ロード"スタースクリームは、昔からそうだ。
 ドレッドウィングをさっぱり評価しない。見もしない。
 飛行部隊の攻撃の要ともなる無数のドローン達を統べている、ということを抜きにしても、ドレッドウィングの命令に対する直向きな態度は賞賛に値する。
 もっともそれが、純粋な動機から来ているものではないこともダイブボムは知っている。
 でも誰にだって打算的なところはあるものだ。褒賞を欲しいと思う心も。
 ドレッドウィングの求めているものはごく些細なものだ。もう少しだけ上のポジション、それはそんなに大きな要求だろうか?
 その見返りにあうだけの働きを彼はしてきたはず。
 スタースクリームの思惑は別のところにあるのかもしれないが、ダイブボムの目から見ればドレッドウィングへの報酬を与えぬことは大きな間違いであった。
 それに、とダイブボムは苛立ち混じりの溜息を吐いた。
 スタースクリームは自分に忠実な者を求めていたではないか。  大帝に付き従っていた猟犬のような、ブラックアウトのような者を。
 常に寄り添い、一度命令が下されれば矢のように獲物を狩り、撃ち倒すことのできる忠実で強い部下を。
 スタースクリームにはなぜ見えなかったのだろうか?些細な言葉を与えるだけで彼に見返りをくれる部下のいたことが。
 ドレッドウィングはただ報われるのを待っていただけだ。大帝に与えられなかった言葉をNo.2に求めただけ。
 その願いも結局、叶えられずにいる。
「なんでそんな顔をしてるんだ」
 怪訝そうな声にダイブボムははっと顔をあげた。
「ドレッドウィング」
「来てたんなら声でも掛けろ。お前達も言え」
 怒られて肩を縮めたドローン達が微笑ましく見えてダイブボムは笑った。
 ナルシスト的傾向の強いスタースクリームのことだから、自分と並ぶにはブラックアウトのように大柄な者の方が見栄えがすると思ったのだろうか。
 それとも日頃奴隷と蔑むドローン達と同型のドレッドウィングを従えるのは嫌だとか。
 どちらにしろ愚かだ。
 ドレッドウィングほど力強く輝く目の持ち主をダイブボムは知らない。
 その輝きに目を留めぬスタースクリームは愚かという他無いだろう。
「何かついてるか?」
 自分が彼の目を、吸い込まれそうな光を見つめていたことに気が付いてダイブボムは慌てて首を振った。
 呆れたようにドレッドウィングが溜息をついて苦笑する。
「ぼけっとしてる暇はない」
 すっと目を細めた彼にダイブボムは期待に満ちた眼差しを投げた。
「スタースクリームの考えていること…おおよその見当がついてきた」
 まもなく、時が来る。
 ドレッドウィングの言葉に彼は胸を熱くした。
 メガトロンでもなくスタースクリームでもなく、彼がディセプティコンを統べる時が、来るのだ。
「行くぞ」
 歩き出したドレッドウィングを追いかけながら願わくば…とダイブボムは思う。
 願わくば、彼の側に常に自分もあるように。
 呼び名はいらない。高い地位も望まない。ただ、彼の側に。




*2009/09/02