midair



 タイトルはお題サイト「シェイクスピア」様より。



 スタースクリームは目を閉じていた。
 眠ってはいない。
 床の冷たさは身中で燃える怒りを中和することはなく、むしろいや増していくだけだ。
 ここから出たらどうしてくれよう、とそればかりを考えていると足音が近付いてきた。
 顔を顰めるとスタースクリームは目を開き、暗がりを見つめた。
 コツコツコツ…カツリ。
 足音が止まる。
「よお」
「何しに来た」
 ひらりと手を振ると、スタースクリームの鋭い視線に何の躊躇も見せずオクトーンは軽く肩を竦めた。
「"おかえり"も無しか?」
 に、と笑ってしゃがみ込む。
 その手にピンク色のキューブがあるのを認めてスタースクリームは目を細めた。
 エネルギーさえあればここから出る事は容易い。
 オクトーンはスタースクリームの表情に笑みを深めた。
「全く残念だぜ、メガトロン様がお前に優しくてよ。帰って早々スタースクリーム、スタースクリームで俺には休む暇もねえ」
 勿体振った仕種でキーを叩き、がちゃりとロックの外れる音が響く。
 スタースクリームが身を起こしたのを素早く手で押し止めてオクトーンは残念そうに呟いた。
「ほんと残念だ、お前がエネルギー切れで死にかけるところが見られないなんて」
 しゃがみ込んでスタースクリームの不機嫌な顔を覗き込み、心底残念そうに溜息を吐く。
 スタースクリームは忌々しげに補給兵を睨みつけた。
 エネルゴンを渡す時もオクトーンはいかにも渋々、といった様子でスタースクリームが引ったくるまで未練がましくそれを離さなかった。
 エネルギーに餓えていたスタースクリームではあったがオクトーンのいる前でがっつくわけにもゆかず、少しずつ口へ運んでいく。
「あとな、スタースクリーム」
 とオクトーンは警告するように指を一本立ててみせる。
「お達しがあるまで逃げようとか思うんじゃねえぞ。それ以上立場を悪くしたいなら別だけどな。ま、しばらく大人しくしてた方がいいぜ。俺ならそうするね。命あっての物種、ってな」
「どういう意味だ」
 ひとまずの摂取を終え口を拭ったスタースクリームが尋ねると、オクトーンは立ち上がって一歩避けた。
 暗闇からするりと黒い影が現れてその足元へまとわりつく。
「お前のお目付役」
「…忌々しい」
 スタースクリームは大きく舌打ちをした。
「言いつけちまうぞーなあジャガー」
 上機嫌でジャガーの頭を撫でるとオクトーンはどこぞからエネルゴンの欠片を取り出した。
「お前だって暇じゃないもんな?」
 エネルゴンを囓ってジャガーが喉を鳴らす。
 優雅に尻尾を揺らしているところは可愛らしかったが、スタースクリームを見つめる目は油断なく光っている。
「サウンドウェーブがわざわざお前のためにつけてくれたんだぞ、感謝しろよスタースクリーム」
「感謝だと」
 舌打ち混じりにスタースクリームが唸ると再び牢にロックをかけながらオクトーンは陽気に言った。
「そうだろ、じゃなきゃお前は今頃エネルギー切れでのたうち回ってるとこだぜ。俺はそのほうが良かったけどな。大帝がそうはさせなかった、ってことの意味をよく考えろ。な、考える時間はたっぷりあるぜ」
 まるで同意するようにジャガーが一声鳴き、牢の前へ踞る。
「じゃあ、またな」
 ジャガー、と相手をはっきりさせてオクトーンは笑いながら廊下を去って行く。
 遠ざかる足音を聞きながら目を細めたスタースクリームの視線の先は、今度は瞼の裏でなく目の前で光る赤だった。




*2009/08/09