midair





 ぶるりと車体を震わせたかと思うと、その車は見る間にロボットモードへと姿を変えた。
 伸びをするかのように身体を伸ばし僅かに呻いた男に向かって苦笑が投げ掛けられる。
「派手なことは慎めよ」
「お望みのままに」
 鈍い銀色が恭しく腰を折ったが、声は笑っている。
「やめろ、サイドウェイズ」
 赤と白の掘削機が苦々しく吐き捨てる。
「そんな口を利くな。相手は俺じゃない」
「本気にするな、デモリッシャー」
 笑ってもう一度伸びをするとサイドウェイズはその延長のような軽い動作でトランスフォームした。
 ショベルカーはゆっくりと向きを変え、スポーツカーへと向き直った。
「実際、どれくらい猶予があると思う」
 口調を改めてサイドウェイズが問うた。
「わからん。そう長いこと隠れていられるとは思わないし、やつらは来る時は来る。いくら注意していても、な」
 先ほどのふざけたものと違い、真剣な声音であったのでデモリッシャーは思うところを正直に口にした。
 余計な虚勢や過剰な自信に意味はなく、もし仮に彼が恐れていたとしても励ましたところで何になろう。
 それにサイドウェイズはいざと言う時には覚悟を決められる男である、というのが彼の評価だった。
 例え一目散に逃げるのであってもそれが彼なりの身を護る手段であり、分を弁えずに無駄に死ぬよりはよっぽど賢い選択かもしれなかった。
 自分の力量を知り、相手の力量を見極め、戦うべきか退くべきかを決断し、撤退することへのためらいを持たぬことでサイドウェイズは生き延びてきたのだ。
 デモリッシャーがそうしないのは単に敵をなぎ倒すだけの力を持っていたからで、そもそもの能力分野が違うだけのことだ。
「皆弱い奴らばかりじゃなかったのにな」
 サイドウェイズの答えは少しずれていたが、デモリッシャーは無言で肯定した。
 時間は大した問題ではない。耐える時間が長かろうが短かろうが来る破壊は一瞬であり、栄光は永遠である。
 それはサイドウェイズもよく知っていることだ。
 やられた、と情報の来た者達は決して弱くなどなかった。
 それだけにオートボットは侮れないということだ。そして、あのちっぽけな生命体も。
「サウンドウェーブからの情報もなし、だな?」
 サイドウェイズが溜息混じりに言う。
「今のところは」
「今のところ?ずっとだろ、ここ何週間も、それからこの先も当分は何も無しだ」
「サイドウェイズ」
 窘めるようにデモリッシャーに呼ばれ、サイドウェイズはエンジンを唸らせた。
 沈黙。
 突然サイドウェイズはエンジンを吹かしタイヤを軋ませて走り出した。
「出かけるのか」
 掘削機は動かぬまま尋ねた。
「ここは電波が悪い。ついでに情報でも集めてくる」
 スポーツカーが返す。
「忘れるな」
 デモリッシャーはそれだけを言って黙り込んだ。
 サイドウェイズも答えるようにクラクションを鳴らし、走り去った。
 運転席にホログラムの人間を乗せて。
 それはサイドウェイズの嫌う行為だったが、彼自身を、そしてデモリッシャーの影に隠れる他の仲間を守るには必要なことだった。
「いいのかよ、デモリッシャー?この辺りは電波なんか悪くねえぜ」
「あいつが走りたいだけだろ」
「ちがいねえ」
 物陰からの声にデモリッシャーは苦笑を返した。
「好きにさせるさ」
 影達は口々に笑う。
「情報を拾ってくると思うか?」
 暗がりから滑り出た一人がデモリッシャーに尋ねる。
 答えは彼でなく後に続いた者が呟いた。
「オートボットに出会さなきゃな」
 また上がった笑い声が収まると、掘削機は静かに定位置へと戻る。
 それから後は風のざわめきにも似た、ちいさな呟きが時折あがるだけだった。




*2009/08/07