撃たれてもなお、ハードトップは動くのをやめなかった。
頭を貫いた弾丸は致命傷にこそならなかったものの重傷であることに変わりはない。
任務への、獲物への、そして生への執着が彼を動かしていた。
なによりもまだ決着がついていない。
苦痛の中にあって彼が強く思うのはただそのことだけだった。
まだ。
まだ、終われない。
前へ進もうと伸ばした手の先を華奢なつま先が塞いだ。
苦々しく息を吐くとその僅かな動作すら激しい痛みを呼び、ハードトップは苦痛に身体を縮めた。
「生きてたのか」
華奢だが侮れない女戦士を見上げて彼は言った。
行われた戦闘に参加こそしなかったが、彼の倒れた場所からでも大体のことは予想がついた。
オートボットは皆やられたと思ったけれどそうでもなかったらしい。
かといって誰かが迎えに来てくれるわけでもないと言うことは、サンダークラッカーもなにかしら怪我をしたということだ。スタースクリームがこっちまで気を回してくれるとはあまり思わない。
期待するだけ無駄なことだ。
舌が縺れている。
頭ではたくさんのことを思い浮かべることが出来たが、いざ口に出そうとすると言葉はぐしゃぐしゃになって消えてしまった。
「あなたこそ」
アーシーが強張った表情で答えた。
先の戦いは彼女に大きな影響を与えたとみえる。
それもそうだろう。チームはほぼ全滅だ。多少の生き残りはいるかもしれないが、それでも彼女は仲間を失ったのだ。
アーシー自身も怪我をしているらしく、やや身体がふらついている。
今ディセプティコンと話などしたくもないはずだ。
それなのになぜ彼女がわざわざ自分のところへ来たか、ハードトップにはよくわからなかった。
とどめを刺しにきたにしてもおかしなことだ。彼なら無駄なお喋りなどしない。
「お前だろ」
何が、とは言わないが彼女は小さく頷いた。
嫌な師弟だ。ディセプティコンをとことん邪魔しやがって。
お前のせいで何もかもぶち壊しだ。俺は失敗した。
そう言ったつもりだったのに、アーシーは聞き取れなかったようだ。
片膝をついた彼女を前にしてハードトップは愛用の銃が手元にないことをひたすらに悔やんだ。
一発でも撃てたらそれで十分だったのに、と。
その一発で俺はお前を仕留められる。
ぺっ、とオイルを吐き捨ててもう一度ハードトップは話そうとした。
それより先にアーシーの躊躇うように息を吸う音がし、ゆっくりと言葉が降ってくる。
「バンブルビーは残ったわ」
その名前を聞くだけでじわりと力が戻ってくるようだった。
これを言うために彼女はここへ来たのだろうか?
「地球か」
見上げると、アーシーが頷く。
地球、か。口の中で呟いてハードトップは笑った。
「何故笑うの」
「可笑しいからだ」
アーシーは呆れたのか戸惑ったのか肩を竦めたがハードトップは気にしなかった。
自分がまだ生きていること、バンブルビーがまだ生きていること、そしてどちらかがいつか死ぬこと。
彼女にはきっとわからないだろう。これらのもたらす高揚が。
地球。そう遠くはない。きっぱり片を付けたいものだ、今度こそ。
「ハードトップ」
アーシーが呼んだ。
来るべき時の想像に胸を膨らませていたハードトップはそれを遮られて顔を顰めた。
それを見てアーシーは複雑そうに笑った。
「怒られなくてすみそうね」
「バンブルビーにか」
「それとも、彼のためにここで私が終わらせるべき?バンブルビーは嫌がるかもしれないけど、あなたを生かしておけばいずれ彼と決着をつけにくるでしょう」
「俺達の決着は俺達の手でつける」
興奮がハードトップに痛みを忘れさせた。
彼は少し蹌踉けたものの、しっかりと自分の足で立った。
離れたところに転がった銃を拾い上げ、損傷の無いことを確かめる。
手に馴染んだ感触が愛おしい。
「俺があいつを終わらせるか、あいつが俺を終わらせるか、だ。手出しは許さない」
「一撃で仕留めるべきだったわね」
「残念だったな。次はもう無いぞ」
「今あなたを撃ったらバンブルビーは喜ぶと思う?」
歩き出したハードトップは振り返らずに手を振った。
アーシーが彼の名前を出した瞬間にハードトップの死は遠のいている。
少なくとも今が彼の死ぬ時ではなくなった。
驚くべきスピードで始まった自己回復に笑って、ハードトップは銃を愛おしげに撫でた。
まだ見ぬ星で彼を待つライバルに会いに行くのが楽しみだった。
*2009/07/22