midair

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「メガトロン…」
「随分と疲れた顔ではないか、プライム」
 メガトロンはすでに元通りの身体を手に入れていた。
 それを何処かぼんやりとした顔で見上げ、オプティマスはただその名前を呟くだけだった。
 滑らかで鋭い指先がすっと動かないオプティマスの顎を撫でる。
「人間どもと仲良くやっているか?オートボットだけでなくあいつ等の面倒まで見てやるとは、優しいことだな」
 囁く言葉は酷く優しげで、それでいて数多の棘が潜んでいた。
 銀色の身体が月の光を受けて鈍く輝く。
 普段は柔らかなその光さえ、メガトロンを通せば冷たく鋭利なものとなるようだった。
 それを見上げてオプティマスは溜息をこぼした。
 白い排気が静かに空気を揺らし、それを散らすようにメガトロンが口を開いた。
「なぜやつらを守る?人間は愚かだ。自分が何をしているかも知らず、何が起きているかも知らない。本当に守る価値のあるものか?目の届く限りの者を守るのは容易いだろうな。彼らはお前を知り、お前は彼らを知っている…だが、その他の者は?地球は小さくはないぞ、お前がその全てを守れるほどには」
 矢継ぎ早に言って、メガトロンは低く笑った。
「それでもお前は手の届く所にいる者すら守れない」
「メガトロン!」
「違うか、プライム?自分も守れないお前が、何を守るのだ。オプティマス・プライムよ」
 オプティマスが言い返そうとしたとたん、それをメガトロンの指が遮った。
 一瞬唇を滑って離れていった指先をオプティマスの目が追う。
 その目に浮かんだ光は嫌悪というには少し切なすぎた。
「お前は欲張りだ」
「それを言えるのか?メガトロン」
「俺はお前ほど欲張ったことはない。俺の求めるものは常にシンプルだ。お前のようにあれもこれもと付属品のついてくるようなねだり方はせん」
 メガトロンの顔がぐっと近付いてきて、オプティマスは僅かに後退った。
 その手が掴んだのは地面の砂利だけで武器ではなく、その拳が握られることもなかった。
「最初はサイバトロン、そしてオートボット、今は地球、それに人間ども。一つを守ることさえ難しいというのに、お前は守れなかった祖国を引き摺って今何を守ろうとしている?人間は脆い。例えばあの小僧だ。戦いなど無くとも死ぬ時には死ぬ、そういう生き物だ。些細な病気からも事故からも救うつもりか?奇跡は何度も起こらんぞ」
 メガトロンはオプティマスに答えを許さなかった。
「他種族との交流は難しい。踏み込みすぎればそれは共存ではなく支配だ。報われぬことと知っていても時にはそれに我慢ならなくもなろう。やつらが恩を仇で返してくるかもしれない。その全てにお前は耐えられると?」
 オプティマスが立ち上がった。
 今度はメガトロンもそれを止めようとはしない。
「そうするつもりだ。そうすることが私の使命であり、そうするだけの価値を人間は持つ」
 二人は彼方へ広がる大地へと目を遣った。
 かつてのように肩を並べていても、彼らはもはやあの時とは違い、またあの日々へと戻ることもできない。
 月は少し位置を変えただけでまだ朝には遠かった。
「メガトロン…」
 オプティマスが静かに呼んだ。
 口の端を歪めてメガトロンは首を振った。
「あれもこれもはだめだ、プライム」
「…戻るのか?」
「スタースクリームがべそをかかんうちに、な。我が種族を守るためにお前のやり方は合わない。お前の守れなかった惑星を守るのは俺だ」
「お前の口から守る、などと聞こうとは」
「言っただろう、プライム。お前のやり方とは違うのだ。お前達が何と言おうとも、そこには命がある」
「ディセプティコンのか」
「構わないだろう、少なくとも死の惑星ではない」
 メガトロンはオプティマスの青い目を覗き込んだ。
「ではな、オプティマス。再び会う時が分かり合う時では無かったとしても、俺はそれを嘆いたりはせん」
「そうだろうな。私も別れを辛いとは思わない」
 あとに残ったのは木々のざわめきと耳に焼き付いた低い笑い声だけだった。




*2009/07/12