ふいにセンサーにちりっと痛みが走った。
ドレッドウィングが立ち止まると、今すれ違ったばかりの男も足を止めて振り返った。
彼の後にうっすら立ちこめた匂いはあまり長いこと吸っていたい類のものではない。
一つ咳をしてからドレッドウィングが見ると、黄色いボディの男はぼんやりとした煙を引き摺ってすまなそうな顔をしている。
ちりちりと身体を駆けめぐる信号を宥め、ドレッドウィングは彼に向き直った。
ディセプティコンの中でも輪をかけて社交性に欠ける彼でも、この男の名は知っていた。
「ダイブボム、だな」
尋ねると、驚いたように目が見開かれた。
それからぱっと顔を輝かせて頷く。その途端ぽんっと音を立てて廊下の電気がショートした。
ぎくっと固まった笑顔にドレッドウィングは苦笑した。
「噂通りだな」
どことなく寂しげな笑みを浮かべて、ダイブボムが肩を竦めてみせた。
「あんたに知っててもらえるなんて嬉しいけど、あんまり良い噂じゃなさそうだな」
「それはお互い様じゃないか?」
ドレッドウィングが自嘲気味に言うとダイブボムはびっくりしたように首を振った。
「まさか!あんたのはやっかんでる連中の言ってる戯言だろ?」
「さあなぁ」
「絶対そうだって。俺のはあながち間違ってもないけど、あんたのは根も葉もないただの噂だよ」
彼が真実そう思っているようだったのでドレッドウィングは可笑しくなった。
悪い気分ではないし、彼がそう思っていたいならあえて否定をすることもないだろう。
「そいつのこともだが、お前は優秀だって話も聞いてるぞ」
そいつ、と彼の身体を指した時空気の流れが変わったのか、ダイブボムの周りを漂っていたガスがゆるりとドレッドウィングの腕に巻き付いた。
さりげなくそれを指で散らしてドレッドウィングは首を傾げた。
「それもほんとだと良いんだがな。残念ながら面と向かって褒められたことはないんだ」
ダイブボムの言葉には友を作れぬ寂しさが滲み出ていて、ドレッドウィングは微かに顔を顰めた。
仲間とのさりげないやりとりすら許されない孤独を、彼は想像することが出来なかった。
独りで居ることは苦痛で無かったし、寂しいという感情もよくわからなかった。
置いて行かれたことに対して浮かぶのは怒りだけで、行ってしまった仲間を恋しいなどとは思わない…と彼は思っていた。
彼の抱いている感情は怒りだけですませてしまうには複雑すぎたが、彼自身がそれを分析することはなかったのだ。それに自分で彼らのことを待っている、なんて彼が認めるわけもなかった。
薄い雲を纏うダイブボムを眺めて、ドレッドウィングは目を細めた。
「ドレッドウィング、俺、そろそろ行くよ。これ以上は…」
曖昧に濁した言葉の続きは、ダイブボムの悲しげな顔が雄弁に語っていた。
センサーに感じる違和感にドレッドウィングも頷いた。
「またな、ダイブボム」
手を差し出すと、ダイブボムはきょとんとした顔でドレッドウィングの手を見つめた。
柄でないと思いつつもドレッドウィングは手を伸ばしてダイブボムの手を掴んだ。
軽く上下に揺すると、それをぼんやり眺めていたダイブボムが急に顔を赤くした。
「うわあ」
もう一度小さく繰り返して、ダイブボムは握った手にぎゅっと力を込めた。
彼の心底嬉しそうな顔を見てドレッドウィングは笑った。
この優秀で、かつ何かと利用価値のありそうな男を野放しにしておく手はない。
ドレッドウィングは渦を巻くガスを見上げてダイブボムの手を握りかえした。
*2009/07/04