ちくちくと規則正しく壁の時計が地球時間を刻む。
彼らデストロンが地球人のそれに生活を合わせる必要も、まして襲撃の時を合わせる必要もないのだが、あえてそうする破壊大帝の律義なところがスカイファイアーは好きだった。
最も、スカイファイアーの思うところと大帝の考えとは違っていたかもしれない。
彼は自分でも自らが悪の所業を行うのに向いているとは思っていなかった。
この力を求められているとわかっていたが、敵と知っていてもサイバトロンを倒す事には躊躇いがあったし、虫螻同然と仲間が笑おうとも人間を撃つ事には抵抗があった。
あの美しい水色のボディカラーを持つジェットロンも自分と似たような感情を抱いている事は知っていた。
だがそれを共有する事は出来ない。
これはとても……難しい問題なのだ。
何の為にとどまるか。何の為に軍団を離れないのか。
一口には説明出来ない。
理由は幾つもあってしかも複雑に絡み合っているのだ。
戦いたくない、それだけの理由で離れられるのほどしがらみのない人生では無い。
ぽーんと時計が時を告げ、はっとしたスカイファイアーは自分の手が止まっていた事に気付いて苦笑した。
顔をあげてみればいつの間にやら夕方である。
「スタースクリーム、スター…」
そろそろ起こさなくては、と声を掛けたものの。
ベッドで丸くなっているスタースクリームは実に気持ちよさそうに寝息を立てていて、スカイファイアーは呼ぶのをやめた。
仕事は一段落ついたことにして、彼を起こさないようにそっとベッドに腰掛ける。
ベッドはスカイファイアーの重みにぎしりと軋み、スタースクリームが身じろぎをした。
それでも彼の起きる事はなく穏やかな寝息と時計の音が静かに部屋を満たしている。
躊躇いがちにスカイファイアーは手を伸ばしてスタースクリームの頭をなぜた。
彼の目は今は閉じられていて、そこに浮かぶ鮮やかな感情の煌めきを見る事は出来ない。
スカイファイアーの知っていた彼と今の彼とは少し違っていたが、その目だけは変わらなかった。
全てを嘲笑うかのような。それでいて恐れ、求め、退ける、様々な矛盾する感情を含んだ光。
あの目で見つめられるのが彼は好きだった。
表面に浮かんだ思いと、その下に隠れているであろう思いと、その二つがもたらす独特の輝き。
スカイファイアーがここにとどまっている理由の一つが彼であることは間違いようのない事実である。
昔馴染みだから、命の恩人だから、それだけでないのもまた事実。
言うなればスタースクリームへの執着だ。
スカイファイアーは彼の好む自由を奪って彼を束縛する事を望んではいなかったが、一方で確かに彼を束縛したいと願っていた。
その考えが時折頭をもたげるたび、スカイファイアーは自分がデストロンにとどまっているのは全てそうする時を待っているからではないかと思われて激しく自分を嫌悪した。
仲間の、特にスタースクリームの信頼を、裏切っていることだ。
いつの間にかつめていた息をスカイファイアーはゆっくり吐いた。
これは優しい愛ではない。
本来あるべき美しいものではなく、もっと醜い、汚らしいもの。
それでも、確かに愛なのだ。
呼吸するたび微かに上下する身体の動きを感じていると、言いようのない愛おしさが込み上げてくる。
優しく抱き締めてやりたい。そっと口付けたい。
そして…そして壊してしまいたいとも、思う。
拳を一度ぐっと握り、そしてゆっくり開く。
自分の少し大きな手がスタースクリームの頬を包んだのと同時に湧き上がってきた感情に、スカイファイアーは目を背けた。
*2009/06/08