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規則正しくぽこぽこと小さな音を立てていたあぶくがぱちんとはじけた。
同時に穏やかな眠りは破れ、身体の周りを包んでいた温い液体が徐々に減っていくのを感じてペイロードは目を開いた。
素早く部屋の中へ目を走らせる。
数人の技師が操作盤の前に立ち、あるいはこちらを見つめてい、そして壁際にはスタースクリームが寄りかかっていた。
暗がりに紛れてその表情は窺えない。
上手く行ったのだろうか?
部屋の中にいる者達は静かな囁きを交わすだけで、成功の喜びや失敗の焦りのどちらも感じられなかった。
急に僅かな不安が頭をもたげる。
主が自分の頑丈なボディを常々褒めていることはペイロードの喜びであったし、さらに主のために役立てる ならば小さなポッドに押し込められる事など、なんでもない。
結果が、伴うならば。
これがメガトロン様を失望させる結果に終わるのならば……。
そうなることが唯一恐ろしかった。
ペイロードの聞かされたのは計画の概要だけで、どの程度の能力を彼の姿をしたドローン達が受け継ぐのかは知らない。
スタースクリームの表情は相変わらず見えず、ガラスに映った自らの目の放つ赤い光を眺めているとぷしゅうと勢いよくポッドが開いた。
続いて次々とケーブルが外れていきペイロードは自由になった。
強張った身体を解しながら床へ降り、頭上の巨大なモニターを見上げる。
そこに映る自分の断面図は決して見ていて気持ちの良いものではなかった。
「ご苦労」
背後からスタースクリームが簡単な労いの言葉を囁く。
ここでは何もかもが静かで、その無感情な響きがペイロードを苛立たせた。
「データは採れたのか」
声に苛立ちがあからさまに現れたのを聞き取ってスタースクリームは微かに笑った。
「心配か?」
唸って肯定を示すとスタースクリームは初めて声を上げて笑った。
単調な機械の音の中、スタースクリームの嘲笑は奇妙な反響を連れて薄暗い部屋を跳ね回る。
苛立ちと得体の知れない寒気にペイロードは少し身体を震わせた。
スタースクリームは笑うのをやめると、冷たい調子で言った。
「お前のデータは採った。この件に関してはお前の出番はここまでということさ、あとは気にせずに休んだらどうだ?」
「だが…」
扉の開く音にペイロードは言葉を飲み込んだ。
僅かな期待を込めて入ってきた一団へ視線を送る。
だが期待した者の姿はなく、ペイロードは溜息まじりに先頭の名を呼んだ。
「ドレッドウィングか」
「そうがっかりした顔をするな。エネルギーを持ってきてやったんだぞ」
ドレッドウィングからエネルギーを受け取ったとたん、ペイロードは急激に疲れを覚えた。
ただデータを採られていただけなのに激しい戦闘を終えた後のようだった。
エネルギーを摂りながらもう一度モニターを見上げると、ひょいと肩へ軽い身体が飛び乗ってきた。
すぐさま捲し立てられる言葉に閉口してペイロードは彼の連れの姿を探したが、予想に反して大帝の優秀な片腕はここには来ていなかった。
代わってついてきたらしいバリケードはスタースクリームと話している。
ペイロードは仕方なく肩の上のフレンジーを掴んで目の前にぶら下げた。
身体の上を跳ね回られるより多少抵抗されたとしてもこの方が良さそうだったからだ。
猛烈な抵抗を受けるかと思ったが、フレンジーは案外大人しかった。
ふと思い付いてペイロードはフレンジーに尋ねてみた。
「お前はどう思う」
「何が?」
青い目が目まぐるしく動く。
無言でペイロードはフレンジーの身体をモニターの方へと向けた。
「どう思うって、任せときゃあんたのそっくりさんがぽこぽこ出てくるだけだぜ?」
そこで急に身体を掴む手に力が込められて、笑うのをやめるとフレンジーは抗議の声を上げた。
「おい!なにし…」
「役立たずがたくさん生まれてもしょうがない」
フレンジーの藻掻くのを無視してペイロードはモニターを睨みつけていた。
「お前なら分かるだろう、ドレッドウィングの部隊のように数ではなく個々でも役に立つドローンかどうか」
「おい、どういう意味だ」
ドレッドウィングの声は不機嫌だったが、ペイロードは構わなかった。
彼の怒りを買うことよりもフレンジーの答えの方が大事だった。
「そうさなぁ…」
フレンジーはペイロードの手からするりと抜け出た。
「あんたのでかくて頑丈な図体がオートボット相手にどうだかはあんたが一番よく知ってるだろ。おつむの方にゃ期待できねえけど、その分命令には忠実かもな」
けらけら笑って早口に訳の分からない事を言っている小さなトランスフォーマーをペイロードは見下ろした。
その言葉が真実かどうか見極めようとしたが、それより早くフレンジーはバリケードの方へ走っていってしまう。
「頭は悪いが忠実…だとよ。お前さんのドローンらしいこった」
「空を飛ぶだけしか能がないやつと比べたらずっと良い」
「ペイロード喧嘩売ってるのか?」
無言で肩を竦めてペイロードは空になったキューブをドレッドウィングに押し付けた。
「……!」
後ろでドレッドウィングが喚いていたが、ペイロードは振り向かずに部屋を出た。
命令に忠実であること、命令を遂行できること、それが大切な事だ。
フレンジーの言葉が正しければ自分のドローンも造られる意味があるだろう。
そう思うと、ペイロードはドローンのことについてそれ以上考えるのをやめた。
相変わらずどこか反りの合わないやつだが、スタースクリームの言う通り自分の出番はもう終わった。
いつまでも一つのことにかかりきりになっているわけにはいかない。
ある程度の答えが出ればもうそれで良かった。
それに、自分には仕事がある。もう少しエネルギーを補給せねば。
足早に廊下を行くペイロードのボディは誇らしげに輝いていた。
*2009/04/28