midair





 次々とはじける閃光と、凄まじい音の後に揺れる大地と、立ち上る煙が視界と聴覚とを遮っていたが、ラチェットの耳は確かにその声を捉えていた。
 後から思い返してみれば入り乱れる様々な音の中で、彼の声だけを、彼の言葉だけを正確に聴き取る事など不可能に近いことなのだが、確かに聞いていた。
 アイアンハイドはどんな顔をしていたのだろうか。
 怒っているようでもあったし、泣いているようでもあったし、そのどちらでもなかったかもしれない。
 ラチェットは混乱する記憶から正しいものを抜き取ろうと一度息をついた。
 …彼は叫んでいたはずだ。叫ばなければあの音の中で聞こえるはずがない。
 でもただ呟いていたような気もする。
 思い出そうとすればするほど、周囲で聞こえていた何かの爆ぜる音ばかりが蘇ってくる。
 アイアンハイドの黒い身体に炎の赤が映って、美しかった。胸の痛くなるほど、美しく切なかった。
 その身体は傷付いていたけれども変わらず力強く、優しかった。

 ラチェットはアイアンハイドが好きだった。
 彼は、ただ強いだけでなくとても優しい。
 戦いを好みながらも、本当は誰よりも戦いを憎んでいるのかもしれない。
 そんな彼が好きだった。
 共に戦える事が誇らしかった。
 同じ道を歩み、背を預けあい、同じ夢を抱いて時を過ごしてきた。

『ラチェット』
 名前を呼んだ声は沈んでいた。
 そして振り返った彼は自分の身体に飛び散ったオイルを見下ろして、顔を歪めた。
 嫌悪ではない。
 嫌悪ではなくて、哀しみに近いもの。
 かつての友を倒す苦しみを、ラチェットもよく知っていた。
『俺には…わからない』
 遠くを見つめアイアンハイドは言った。
 何が、とも何故、とも言わなかったが、どちらにしてもラチェットも答える事など出来なかっただろう。
『何も見えない、何も…見えるのは暗い戦場だけだ』
 そうだ、彼は泣いていた。
 その顔は煙に隠れてはっきりと見えなかったけれど彼は泣いていたのだった。

 深く溜息をついてラチェットは顔をあげた。
 アイアンハイドは眠っていた。
 その表情は硬く、眠りの中でも戦っているようで。
「アイアンハイド」
 ラチェットはそっと呼んだ。
 彼の腕に触れて、静かなモーターの振動を感じる。
 よく知ったその小さな震えはラチェットを安心させた。
「……」
 逃げはしない。離れはしない。
 戦いを選んだ時から、互いに分かっていたはずだ。
 どんな道が前に広がっているのか。
 だから今見えるのが戦いの場だけであるとしても、立ち止まる事はできない。
 共に、行くのだ。
 アイアンハイドの肩を軽く揺すり、ラチェットは澄んだ青い目を覗き込んだ。




*2009/04/24
*2009/06/23 加筆修正