ぺちぺちと頬を叩かれてスタースクリームは呻いた。
身体中が痛くて最悪の気分だった。
起きたくなどない。
なのに頬を叩く手はしつこく、名を呼ぶ声も無視するには大きすぎた。
「スタースクリーム」
馴染みの無い声にスタースクリームは声の主を見ようと薄く目を開けた。
そしてすぐ閉じる。
だが目の前の男に寝たふり、なんて手は通用しなかった。
「起きたね」
「…起きてない」
「起きてるさ」
頬を軽く引っ張られる。
乱暴にその手を叩いてスタースクリームはようやく身体を起こした。
「気分は?」
「御陰様で最高だ」
精一杯の嫌味を込めてやったのに、マイスターはおや、と笑っただけだった。
ぎしぎし悲鳴を上げる身体を慎重に動かしてみる。
全身を強く打ったらしく軽く動かすだけでも相当痛んだが、重大な損傷は無いようだ。
とりあえずほっとしてスタースクリームはきょろきょろと辺りを見回した。
「ここはどこだ」
戦闘は寂れた倉庫群で行われていたはずだったが、ここには倉庫など一つも見当たらない。
びゅうと風が吹いて巻き上げられた砂にスタースクリームの顔が歪む。
細かな砂がボディの隙間にもぐり込むのが彼は大嫌いだった。
マイスターからの答えは無い。
不機嫌な視線を向けて初めてスタースクリームは彼が怪我をしているのに気が付いた。
膝の上に置かれた片腕からは時々火花が散っているし、無造作に投げ出された足もあまり良くはなさそうだ。
それよりなにより、いつも目を覆っているバイザーが酷く割れている。
その下の青い目がスタースクリームの不躾な視線に気付いてこちらへ向けられた。
「あんまり見ないでくれよ」
マイスターがぱちりと片目をつぶった。
残ったバイザーの破片が彼の顔に奇妙な陰を落としていたけれども、それがウインクの魅力を損なう事はなかった。
一瞬訳の分からない感情に捉えられてスタースクリームは言葉に詰まった。
言い返したい言葉はすぐに浮かんできたが、それを口にするのはひどく馬鹿げた事に思えたのだ。
せめてもの抵抗に大きく鼻を鳴らす。
それからマイスターの顔から目を逸らして遠くを眺めるふりをした。
といっても青い空が延々と広がっているだけだ。
雲一つない澄んだ青はサイバトロン共の目に似ていた。
…あほらしい。
自分の考えにスタースクリームが内心毒づいた時、緊迫感のない調子でマイスターが言った。
「君、通信は?」
「…もうした」
口の中でぶつぶつ呟いた後、ぶっきらぼうにスタースクリームは付け加えた。
「返事は無いがな」
「そう」
会話がまた途切れる。
急に居心地の悪さを覚えて、スタースクリームは振り返らないまま言葉を投げた。
「どうせお仲間がすぐ来てくれるんだろ。そうなる前にこっちの迎えが来てくれりゃあいいけどな」
マイスターがははは、と笑った。
「どうかな。ブロードキャストが通信をキャッチしていればの話さ、もう通信するエネルギーがないんだ」
「ふん、様ぁないな」
「全くだよ」
今度は少し自嘲するようだったが、すぐににっこり笑う。
「デストロンの方が早いかもしれないね。殺されないといいが」
スタースクリームは呆れたように肩を竦めた。
「どうせいざという時のエネルギーは残してるんだろ」
どうだろうね、とマイスターは笑みを深くした。
割れたバイザーと時折散る火花が無ければ、彼がダメージを負っているなどとはとても思えない。
サイバトロンってのはどうしてこう暢気なやつらばかりなんだろう。
スタースクリームは心底不思議に思った。
第一、敵と二人っきりなのにこいつときたら攻撃されるなんて欠片も思っていないんじゃ無かろうか?
全く馬鹿の集まりだな、サイバトロンは。
そう結論付けて装甲の上にうっすら積もった忌々しい砂埃を払い、自慢の武器に満足気な視線を送る。
ふと、自分もマイスターを攻撃しようとしなかったことに思い当たってスタースクリームはうんざりした顔をした。
どうやらサイバトロンのお人好しが移ったらしい。
溜息をつくと顔をあげたマイスターが首を傾げて微笑んだ。
*2009/04/17