「何見てる」
ボーンクラッシャーは珍しく機嫌が良かった。
オートボットのチビと仲良くしてやろうと思うくらいには。
「あ、うん、大したことじゃないんだけど…」
となりにちょこんと腰掛けたバンブルビーが笑った。
そうか、と唸ってボーンクラッシャーはまたエネルゴンを満たしたグラスへ顔を戻したが、バンブルビーはまだこちらを見上げていた。
ボーンクラッシャーの顔を凝視しているわけではない。
視界の隅で確認したところ、彼の視線はどうやら彼のアームへ向いているようだった。
途切れた会話を拾い上げて上手く繋げられるほど彼は器用では無かったから、バンブルビーが何か言い出すのを待つ事にした。
俺が、オートボットのチビの話すのを待つ。
そう考えてボーンクラッシャーはなんだかおかしな気分になった。
昔なら問答無用でぶっ壊してるところだ。
「ボーンクラッシャー?」
やっとバンブルビーが口を開いた。
「何だ」
見下ろすとバンブルビーは妙にきらきらした目で見上げてくる。
ボーンクラッシャーは戸惑った。それがどういう意味を持つものなのか彼は知らなかった。
「あのさ、スパゲッティって知ってる?」
「スパゲッティ」
繰り返してから首を振る。
スパゲッティ。知らなかった。聞いた事もない。
「うん、スパゲッティ。人間の食べ物なんだけど」
バンブルビーからスパゲッティなるものの映像が送られてくる。
ざっと眺めてみてボーンクラッシャーは首を傾げた。
これが一体どうしたというのだろう。話の方向が全く読めない。
バンブルビーの目の光はいっそう輝きを増していてボーンクラッシャーを困惑させた。
「こうやって…」と何かをくるくる回す仕種をしてみせる。
「フォークに巻き付けて食べるんだ」
想像のスパゲッティが旨く巻き付けられたのだろうか、バンブルビーは嬉しそうな顔をした。
「…なるほど」
なにがなるほどなのか自分でもよくわからなかったがとりあえずそう言ってみる。
返事に詰まったらとりあえず肯定しろ、とレッケージも言っていた。
「そうなんだよ!」
どうやら上手くいったようだ。
バンブルビーが強く頷いて見えないフォークを持った手を突き上げた。
「だからボーンクラッシャーのアームでやったらすごく面白いと思うんだよね!」
「…」
ボーンクラッシャーは絶句した。
人間の食べ物を俺の武器でつつき回すだと?
このチビは一体何を言っているのだろう。
「ボーンクラッシャーの前に大きなスパゲッティを置いてさ、ぐーんってアームを伸ばして、くるくるって…!」
バンブルビーはうっとりした顔で溜息をついた。
「すっごく綺麗に巻けると思うんだよね」
「なにがだい?」
足元から声がした。レノックスだ。
「わあレノックス!どうしたの、アイアンハイドと一緒に?」
バンブルビーが手を差し出して、レノックスが慣れた様子でそこへ上る。
「ちょっと時間が出来たんで寄ってみたのさ」
お邪魔だったかな、と微笑む。
ひどく疲れを覚えてボーンクラッシャーはゆっくり首を振った。
バンブルビーの相手を代わってもらえればもう何でもいい。
慣れないことはするものではないと心底反省しながらエネルゴンを飲んでいると、レノックスが隣で大笑いを始めた。
「そりゃあ良い!傑作だ」
ひいひいと苦しそうに腹を抱えながら言い、それにバンブルビーはでしょう、と嬉しそうに頷いている。
エネルゴンは諦めて早々に退散するべきだったろうか。
ボーンクラッシャーは後悔した。
「すごく面白いよ。出来る事なら俺達が乗り込んで操縦したいくらいだね」
「あ、それも良いかも!」
「アームは外せるんだろう?君達も競ったら良いじゃないか」
それは思い付かなかった!とバンブルビーは興奮した面持ちでがくがく頷いた。
同時にこちらを振り向いた二人を眺めてボーンクラッシャーは顔を顰めた。
自分のアームをそんなことに使いたくなどないし、第一そんな食べ物を上手く巻けたからといって何なのだ?
ちゃんと誰かが食べるのか?
「ねえボーンクラッシャー!」
「だめだ」
「でも…」
身を乗り出したバンブルビーを軽く押しやってボーンクラッシャーは唸った。
がちゃりと背中のアームが騒ぐ。
正しい使い方を見せてやろうじゃないか、と。
「ボーンクラッシャー」
突然現れたスタースクリームが呼んだ。
ボーンクラッシャーは持ち上げかけていたアームを下ろして残念な思いで振り返った。
お楽しみを邪魔されたのだ、自然顔は不機嫌になる。
「さっきから呼んでいただろう、さっさと来い」
スタースクリームはそれにもまして不機嫌な顔をして言った。
立ち上がって歩き出すと後ろから「考えてみてねー」とバンブルビーの声が追いかけてきたが、彼の機嫌はすでに友好的な返事を出来るほどのレベルに無かったので、ボーンクラッシャーは口をつぐんだまま部屋を出た。
*2009/04/14