がしん、と重い音で互いの拳がぶつかった。
拳だけではない、幾度も身体ごとぶつかり合って二人とも傷だらけだった。
小さく声を漏らして顔を顰めたストッケードと対照的にペイロードはまるで表情を変えない。
ただわずかにその目の光が強くなった。
「なぜだ」
ペイロードの重圧をなんとか受け止めながらストッケードが絞り出すように尋ねる。
「なぜ?なぜ、だと?」
疑問へ疑問を被せたペイロードにストッケードは唸り声で返した。
その瞬間拳が砕かれそうな程の力が彼を襲い、視界が反転した。
「なぜ?!愚問だ!」
荒々しくペイロードが吼えた。
ストッケードは意外な思いで頭上の一つ目を見つめた。
無口、とまではいかないがペイロードは普段から口数の少ない方だったし、感情を剥き出しにすることも少なかった。
ごく一部の者に対しては違ったようだが残念ながらストッケードはそのごく一部、には含まれていなかった。
だから初めて見るペイロードの感情の爆発は、それが彼自身の命の危険と隣り合わせだとしても、なかなか興味深いものだったのだ。
むしろ今のような状況だからこそ、楽しめるのかもしれない。
「愚問だ」
今度は少し落ち着いた様子でペイロードが繰り返す。
ぐいと顎を掴まれて強い光を放つ目が近付けられた。
「俺の仕えるお方はただ一人。それはスタースクリームではない、それだけのこと」
ストッケードはぼんやりとその眩しい光を覗き込んだ。
「俺はお前とは違う。サンダークラッカーともラムジェットとも…ましてやドレッドウィングとも、違う!」
そこでペイロードはストッケードの身体をぶんと放り投げた。
激しく壁に叩き付けられて呻いたところへまたペイロードの声が降ってくる。
「かの方が亡くなったという。俺はこの目で見るまで信じん。スタースクリームを信じもしない」
霞んだ視界の隅に痙攣する片手を映しながらストッケードは呟いた。
「死んでいたらどうする」
仕える主が、死んでいたらお前はどうする。
ペイロードは唸るような声を上げた。
その肩が揺れているのを見てストッケードはようやく彼が笑っているのだと知った。
「お前はメガトロン様がそう簡単に亡くなると思うか?」
それは問ではあったが答えを求める類のものではなかった。
ペイロードはストッケードの答えを最初から必要としていない。
「スタースクリームは強い、スタースクリームは賢い。だがそれだけだ。メガトロン様とは比ぶるべくもない」
ストッケードはその目に恍惚に似た表情が浮かぶのを認めた。
それはすぐに消え、元の無感情な赤い光が灯る。
だが周囲で燃え盛る炎を映して揺らめく光はストッケードの目を捉えて放さなかった。
「これからどうするつもりだ。地球へ行くのか」
ドローン達の反抗はサンダークラッカーの前に次々と蹴散らされている。
スタースクリームに追われたドレッドウィングが逃げおおせるとも思えない。
それはペイロードにも分かっているはずだ。
「そうだな。そろそろ行かなくては」
ペイロードが笑った。
ぐっとその拳に力が込められる。
幸いな事に多少のお喋りのお蔭でストッケードの身体は衝撃から立ち直っていた。
迎撃体勢を整え、ペイロードの拳を受け止める。
受け止めるだけではなく打ち返す力もなんとか残っていた。
両者の力はほぼ互角で、膠着状態がしばらく続く。
決定打を放てるほどストッケードは回復していなかった。
「時間が無いな」
ストッケードの拳を握ったままぽつりとペイロードが言った。
轟音と共に頭上をディセプティコンの船が飛んでいく。
無意識に目でそれを追ってストッケードは考えた。
スタースクリームはどうしただろう。これからどうするつもりなのだろう。
ペイロードに視線を戻すと、彼も何か違う事を考えているような気がした。
「さっさと片を付けよう」
「…そうだな」
遠くで一際大きな閃光がはじけた。
*2009/04/10