海の真ん中に巨大な塔がつきだしていた。
あたりはしんと静まりかえり、微かに塔にあたる波の音が聞こえる。
威圧感のある黒々とした影を海に落とすその塔から伸びたハッチの先に、もう一つ小さな影があった。
先端に腰掛けて空に散った星を眺めるように顔を上に向け、時折足をぶらぶらさせている。
雲が切れ、その間から月が姿を現した。
その光をうけて彼の青い身体がくっきりと浮かび上がる。
サンダークラッカーは目を細めると小さく溜息をついた。
空から遠い海面へと視線を移しぶらぶら足を振ってみる。
月の反射できらきらと輝く波をぼんやり数えていると、後ろから足音が近付いてきた。
規則正しく誇らしげな音を立てて近付いてくるそれにサンダークラッカーは膝に置いた手に力を込めた。
「何してる」
数歩残した距離で足音は止まり、独特の調子の問が投げられる。
握っていた手を開いて指先に目を落としながらサンダークラッカーは答えた。
「外の空気が吸いたかったから」
背後に立っていたスタースクリームがふん、と鼻で笑う。
「なんでここに?」
「ハッチが開きっぱなしだったからな。サウンドウェーブのやつは人に報告するだけで自分じゃ動こうともしない」
ああ、と溜息のような相槌を打ってサンダークラッカーは振り向いた。
「なあ今日は星が綺麗なんだ」
「そうかよ、それがどうした」
「どうしたって…別にそれだけだ」
空を見上げてサンダークラッカーは少し笑った。
「それがどうしたってお前、そんな言い方ないだろスタースクリーム」
「星なんか見て喜ぶのはお前くらいのもんだ。遠くで光ってるだけで何の足しにもなりゃしない」
「でも綺麗じゃねえか。あのどっかにセイバートロンがあるんだぜ?」
「そりゃあロマンチックだな」
呆れたように言うとスタースクリームはサンダークラッカーの隣に腰を下ろした。
ごそごそと動いて場所を空けてやるとサンダークラッカーはスタースクリームをちらりと見て、照れたような顔で口を開いた。
「でもよぉ、なんかいいじゃねぇか…そういう想像すると」
「あーそうだろうなお前はそういうやつだ」
スタースクリームは海に目をやりながら口を歪めた。
「ちぇ、分かってくれねぇの」
口を尖らせたサンダークラッカーにスタースクリームが視線を落としたまま言う。
「パーセプターやハウンドなら分かってくれるだろうよ」
「サイバトロンに分かってもらってもしょうがねえだろ」
「そうか?」
「…嫌な言い方するなよ」
サンダークラッカーは顔を顰めた。
「おやそりゃあ悪かったな」
顔をあげたスタースクリームはそう言って鼻をならすと立ち上がった。
「お前がまた考えてるんじゃないかと思っただけだ」
ぎゅっと拳を握ってサンダークラッカーは力無い笑みを浮かべた。
「考えてるって?」
「…」
「どこへも行きやしない。サイバトロンなんか以ての外だ」
「そんなこと言っていいのか?まあお前の好きにするさ」
無表情のスタースクリームを見上げてサンダークラッカーは僅かに顔を歪めた。
「冷たいなお前」
そうか?と呟いてスタースクリームはまた海へ視線を落とす。
つられるようにサンダークラッカーも足元へ目をやった。
「俺に優しい言葉でもかけてほしいと?」
「例えばどんなのがあるんだよ」
「ふむ…」
「なんだよすぐ思い付くだろ、それくらい」
サンダークラッカーが笑うとスタースクリームも片頬を吊り上げて笑みを作る。
「でもスタースクリームにゃ似合わないな、優しい言葉なんて」
「飴と鞭はいつ使うかどう使うかが肝心なんだ」
「お前の飴は毒が入ってるだろ」
「それも使いようさ」
言いながらスタースクリームはサンダークラッカーを引っ張り上げて立たせた。
ぽん、と軽く背中を叩いて耳元へ口を寄せる。
「お前はここにいるべきだ。俺の役に立て」
一瞬目を見開いたサンダークラッカーの顔にゆっくりと笑顔が広がった。
「それってどれくらいの優しさだ?」
「何でもかんでも教えてやるわけないだろう、自分で考えろ」
サンダークラッカーはくすくす笑ってスタースクリームの手をひいた。
「答え合わせはいつする?」
そのまま二人は宙へ踏み出す。
手をつないだままスタースクリームは月を見上げて目を細めた。
「結構自信あるぜ、俺」
「ふん」
ごおっと起こった風に海が揺れ、月明かりに飛び散った波がきらきらと輝いていた。
*2009/03/19