midair





 次の商売をどこでやろうかと考えつつも、オクトーンの意識は同時進行で色々なことに分散されていた。
 ジャンキオンとのやりとりを思い返したり、船の調整のことや、傍らの書類に紛れて置いてあるチャンネル表、折角作ったエネルゴンに手をつけようともしないブリッツウィングをちょっと心配したりだとか。
 目を瞑って決めた惑星に針路を取り、チャンネル表に伸びかけた手を止めてブリッツウィングを振り返る。
「どうした」
 肘をついたまま物思いに耽っていたらしいブリッツウィングはオクトーンの声にのろのろと顔をあげた。
「あー…いや、別に」
 気付いたようにエネルゴンを一つ摘んで口に放り込む。
 ゆっくりと咀嚼した後も特に何を言うわけでもなく、次のエネルゴンを取り上げて同じ動作を繰り返す。
 いつもなら恐るべき速さで平らげて上手かったとかいまいちだとか大声で喚いてどちらにしてもとりあえず満足げな顔をするのに。
 チャンネル表を一瞥してオクトーンは立ち上がるとブリッツウィングの隣に腰掛けた。
「腹減ってないのか?」
「うん…ううん」
「どっちだよ。変なもん食ったんじゃないだろうな?」
「…」
 こちらを見ようともしないブリッツウィングに焦れてエネルゴンの皿を押しやると肩を掴んで強引に向きを変えさせる。
「ブリッツウィング」
「…うん」
 目の前でひらひらっと手を振ってみて反応の薄いのに溜息をつくとオクトーンは一度押しやった皿をまた引き寄せた。
「まーたお前はホームシックか」
 エネルゴンをとるとブリッツウィングの口に押し込む。
「言っただろ、帰ってもいいんだぞって」
 されるがままにエネルゴンを食べていたブリッツウィングの動きが止まった。
 それに気付かずに次のエネルゴンを取って向き直ったオクトーンはぽろりとバイザーから零れた滴にぎょっと目を見張った。
「わ、わ…!ブリッツウィングブリッツウィング泣くなって!頼む泣かないでくれよ、ああくそなんだってんだどうしたんだよ?」
 慌てふためいてとりあえず涙を拭ってやったものの、ブリッツウィングの涙は止まらない。
 前回ブリッツウィングが急に沈み込んだ時は散々好きなものを食わせてやったり武器の整備をしてやったりしてなんとかなったが、今回はどうしていいやら見当もつかない。
 俯いてしまった頭を撫でながらオクトーンは途方に暮れていた。
 しばらく小さくしゃくり上げる声が続き、やがてブリッツウィングがしょんぼりした顔を上げた。
「よしよし」
 落ち着いたか?と肩を叩くとふにゃりと力の抜けた身体がもたれかかってくる。
「疲れたよな、悪かった」
 デストロンにいたころこんなブリッツウィングを見た事はない。
 常に後ろを気にしている生活は二人とも経験が無いわけでは無いが、デストロンでの生活の後ではやはりきつかった。
 なるたけ心地の良いようにはしているが、基地に比べればこんな船では広いとは言えないし、移動している時間の方が長いのだ。
 人一倍動きたがるブリッツウィングにはストレスのたまることも多いだろう。
「中立惑星へ行って…そこで少し休んでからこれからのことを考えよう」
「…やだ」
 小さく胸元から声が上ってくる。
「やだ?やだってお前、」
「デストロンなんか帰りたくねえし、中立惑星なんか行ったらお前に置いて行かれる」
 苦笑してオクトーンはブリッツウィングの背中を撫でた。
「置いていきやしねぇよ。ただちょっとのんびりする時間も必要だろ?四六時中揺られてちゃあ落ち着くわけない」
 ブリッツウィングはまだ疑っているのか黙ったままだ。
 そっと顔をあげさせるとオクトーンはバイザーの向こうの目を見つめた。
「放り出すと思うのか?確かにこれは俺の船だが俺はお前まで自分のものにしたつもりは無いぜ。ここに縛り付けてるわけじゃない、お前は好きな時に好きなところへ行けばいい。置いて行かれても文句を言やあしない。だが俺がお前を追い出す事は絶対に無いんだ、勘違いするなよ」
 ぎゅっとブリッツウィングの口がへの字に曲がった。
 それを見て少し頬を緩めるとオクトーンはブリッツウィングの手をぽんぽん叩きながら言った。
「そらさっさとエネルゴンくっちまえ。休暇前に一仕事片付けるぞ」
 頷いたブリッツウィングは甘えるようにオクトーンにすり寄った。
 あーん、と開いた口に笑いながらエネルゴンを突っ込んでやってオクトーンは少し強めにブリッツウィングの額をつついた。
「甘えんな馬鹿野郎」
「んー」
「ったくほら…あーん」




*2009/03/16