「お前なあ…」
呆れたように溜息をつかれてブリッツウィングは鼻をならした。
「なんだよ」
「んな欠伸ばっかしやがって、だらけすぎだっての。働け働け」
言うオクトーンはせっせとアストロトレインの運んできた荷を下ろしている。
「そうだぜ早くしろよ、こっちは身体が強張って仕方ねえんだ」
スペースシャトルがぼやく。
ブリッツウィングはもう一度大あくびをして面倒くさそうに頭をかいた。
「へいへい、やりますよ」
ひょいひょいっとコンテナを担ぎ上げて無造作に床に下ろす。
「やっりゃあいいんだろ!やりゃあよお!」
オクトーンよりも力のあるブリッツウィングは軽々と重い荷を持ち上げては積み上げていく。
助かった、とオクトーンが一息つく間にスペースシャトルに満載されていた荷はほとんど下ろされた。
「っと危ねぇ」
ブリッツウィングが手を滑らせて一つのコンテナが凄まじい音で床に落ちた。
足挟むところだったぜとブリッツウィングが言う側で、無計画に積み上げられたコンテナが不吉に揺れる。
慌ててそれに取り縋って崩壊を防いだオクトーンはブリッツウィングを睨みつけた。
「馬鹿野郎、ぽんぽんぽんぽん積み重ねりゃあいいってもんじゃねぇんだぞ!気をつけろ!」
「ああ俺は馬鹿なんだよ!知らなかったのかよ馬鹿野郎!」
「んだと?!」
「馬鹿野郎っつったんだよ聞こえなかったのか?!ポンコツタンカー!」
ブリッツウィングが最後の荷を引き摺り出して、振り向き様それを乱暴に床に叩きつけるように落とす。
睨み合う二人の横でぶるりとスペースシャトルが震え、アストロトレインがトランスフォームした。
「やめろやめろ」
今にも銃を抜きそうなブリッツウィングの胸を押し返して、反対の手でオクトーンの頭を掴む。
そのアストロトレインの手を振り払ってオクトーンは銃を掴んだ。
「オクトーン」
「アストロトレインは黙ってろ。俺はポンコツ呼ばわりされて黙ってられるほど出来ちゃいねえんだよ」
「ポンコツにポンコツつって何が悪い。かかってこいよポンコツ野郎、返り討ちにしてやるぜ」
ぎらりとブリッツウィングのバイザーが光る。
ばこん!
アストロトレインの拳がブリッツウィングの頭を容赦なく襲った。
「俺は疲れてんだ!さっさと仕分けして早く寝てえんだよ!馬鹿の喧嘩につきあってられるか。ったくこの石頭が」
ぼやいて拳をさする。
石頭の称号をもらったブリッツウィングはさしてダメージを受けた様子もなく、ぽんぽんと腕の埃を叩くような仕種をした。
「じゃあてめえ一人でおやり下さいませ、だ。俺達にはお構いなく」
どうぞどうぞ、と片手を広げる。
ひくりとアストロトレインの顔が歪んだのを認めてオクトーンが口の端を吊り上げた。
「馬鹿は馬鹿で喧嘩してますからね。お気遣い無く!」
言って、自分で可笑しくなったのかくつくつ笑う。
「そういうこった。では失礼!」
横を擦り抜けようとしたブリッツウィングとオクトーンをアストロトレインの力強い両腕が掴まえた。
「なんだよ、お利口さんの汽車ぽっぽ」
オクトーンの台詞にぶっとブリッツウィングが吹き出した。
「汽車ぽっぽ!その図体で?汽車ぽっぽ…!」
「いい加減にしろお前ら。いいから黙って作業に戻れ」
「嫌なこった。今日はもうたくさん働いた」
「何言ってやがる、ブリッツウィング。お前は荷下ろししかしてねえじゃねぇか。俺がどこまで行ってきたと思ってんだ」
肩を竦めるとブリッツウィングはゆっくり首を振った。
「しょうがねえだろ、それが機関車さんの仕事だ」
オクトーンがぶはっと吹き出してげらげら腹を抱えて笑い始めた。
「お前もそうだろ、ぐずジェット」
ブリッツウィングの言葉にぴたりとオクトーンの笑いが止む。
「ブリッツウィングてめえ、補給兵敵にまわすとどうなるか教えてやるぞ」
「おお怖い!ちびりそうだぜ」
オクトーンが引き金を引く前にアストロトレインのライフルが火を噴いた。
「面倒だ、二人まとめてスクラップ置き場に捨ててきてやる」
すばやく飛び退ったブリッツウィングが銃を抜きながら声をたてて笑った。
「そりゃこっちの台詞だぜアストロトレイン!輸送屋二人まとめて片付けてやる」
「廃棄一歩手前のやつと一緒にしないでもらえるか?」
心外だとばかりに顔を顰めたアストロトレインにオクトーンが怒鳴った。
「てめえが言うか鈍行シャトル」
トランスフォームしたブリッツウィングの砲台から続けざまに撃ち出された弾が二人の間を擦り抜けた。
「ぼさっとしてっとほんとにスクラップだぞ!」
ぎゃはははは!という笑い声と共に壁に穴が開く。
すばやく距離をつめたアストロトレインがタンクモードのブリッツウィングを蹴り飛ばした。
「お前はスクラップになっても使えるとこなんざねえな」
「お前もな!アストロトレイン」
背後から撃たれてアストロトレインが呻く。
「ありがとよオクトーン、お礼にこんなのはどうだ?」
「うわっ!てめ…ブリッツウィング!」
冗談まじり笑い混じりの言葉を投げ合いながら至極楽しそうに三人は撃ち合いをしていた。
一見じゃれ合っているように見えなくもないが、壁や床に開いた穴はそれぞれがセーブなど欠片もしていない事を示している。
全力での大暴れの結果積み上げられていた荷は崩れ、壊れたコンテナの中身がそこら中に散乱し、アストロトレインの運んできたエネルギー物質は三人の足に踏みにじられてただのがらくたになってしまっている。
その時、突然凄まじい爆発が起きた。
爆風に吹き飛ばされて壁に叩き付けられて三人は同時に呻く。
いち早く衝撃から立ち直ったブリッツウィングが部屋の一角がすっぽり無くなっているのを眺めてポカンとした後笑い出した。
「おいおいおいこりゃあやべえぞ」
「いてて…笑ってる場合か?ブリッツウィング」
アストロトレインが渋い顔をして、倒れたままのオクトーンを揺すった。
「起きられるか、オクトーン」
「…くそ、なんだってんだ?」
「誰かがエネルゴン吹き飛ばしやがった」
頭を押さえて顔を顰めるオクトーンにブリッツウィングが答える。
「誰か?お前だろ、ブリッツウィング」
「俺じゃない!」
「ていうかどうすんだ、これ」
どうだかな…とアストロトレインが首を振ると、まだ顔を顰めたままのオクトーンが呟いた。
三人は黙り込んでしばし部屋の惨状を眺めた。
とても『なんでもありません』と言い張れるような状態ではないし、自分達の手で修復できるようなものでもない。
「スクラッパーに頼んだら直してくれねえかな?」
ブリッツウィングが期待を込めて言うが、残りの二人が反対する。
「メガトロンに報告が行くに決まってんだろ」
「ビルドロンが知ってるってことはデストロンが知ってるってことだぞ」
「じゃあどうすんだよ」
うーん…とそれぞれ考え込んで、同時に同じ結論に達した。
「逃げよう」
「だな」
ブリッツウィングが立ち上がりオクトーンが苦笑混じりに頷く。
「ったく誰だ始めたのは」
エネルギー物質の欠片を蹴り上げてアストロトレインが溜息をついた。
ブリッツウィングとオクトーンは顔を見合わせるとその背中を一緒に叩く。
「そんなこと言いっこなしだぜ、アストロトレイン」
「それより早くおさらばしようぜ」
な、な、と背中を押す二人にアストロトレインは笑い出した。
「お前らこういう時だけ息が合うよな」
おかしなやつらだ、と言うとトランスフォームする。
「よーし鈍行シャトルで逃げんぞ」
「おいまだ根に持ってんのかよ!」
「冗談だよ」
アストロトレインは鈍行などとはとても言えないような素晴らしいスピードで基地を飛び立った。
サウンドウェーブの報告ですでに討伐隊を組んでいたメガトロンを歯噛みさせるほどの。
三人が逃げまわっている間、倉庫はビルドロンによって修理され、失われたエネルギー物質の代わりに地球の施設がデストロンによって襲撃された。
襲撃を行ったジェットロン達は口ではぶつぶつ言っていたものの十分それを楽しんでいた。
トリプルチェンジャーの三人は結局メガトロンにお咎め無し、と呼び戻されるまで宇宙で楽しくやっていた。
*2009/03/09