メガトロン様とオプティマスは人間共と会議をしに朝早くダムを出て行ったのだった。
それを忘れていつも通り入れてしまったエネルゴンコーヒーはまだ半分以上残っている。
とても飲みきれんな、とニュースをチェックしながらバリケードは溜息をついた。
朝皆が集まるということはめったになく、それぞれが好きなように一日を始める。それがダムでの基本的な生活スタイルだ。
メガトロンとオプティマスは呆れるほどの早起きで、ブラックアウトとバリケード、それにジャズが続いて起き出す。
ラチェットも早くから行動しているらしいが、ラボに篭もりきりかどこかへ出掛けているらしく朝から姿をみることはあまりない。
メガトロン達にエネルゴンコーヒーを入れるのが最近のバリケードの日課だった。
試行錯誤の後、メガトロンの好む味を見つけたバリケードはすっかりこの仕事が気に入っていた。
メガトロンは何も言わないが満足しているようだったし、朝っぱらからブラックアウトをからかうことができるのも密かな楽しみであった。
今日はジャズとブラックアウトも会議に同行したため、このままでは一人でエネルゴンを消費しなければならない。
誰か顔を見せないかとしばらく待っていると非常にタイミングよくスタースクリームが現れた。
「いいところに来た」
機嫌良く手をあげたバリケードにスタースクリームは警戒するように眉を顰めた。
「なんだ」
「コーヒーがあるぞ」
スタースクリームはいらん、と首を振って「メガトロンはもう出掛けたのか?」と尋ねた。
「置いて行かれたか」
バリケードが笑うと苛立ったように鼻を鳴らす。
「ブラックアウトで充分な件だからだ。置いて行かれたわけではない」
「だがオプティマスはジャズを連れていったぞ」
残っていたコーヒーを全部カップに注ぐとバリケードはスタースクリームにつきだした。
「それがどうした。…いらんと言っただろう」
そう言ったもののカップを受け取るとスタースクリームはソファに腰を下ろした。
カウンターに座っていたバリケードもその向かいへ移動する。
「人間の文化についての講義とやらだ、今日の会議は」
だから俺が行く必要は無い、と言うとスタースクリームはバリケードに向かって手を出した。
意図を掴みかねてバリケードが首を傾げると、役たたずめと言わんばかりに大袈裟に息をつく。
「ミルクと砂糖だ、馬鹿め」
「ミルク?砂糖?お前が?」
「他に誰がいる。良いからさっさとよこせ」
フレンジーだったらのたうち回って笑いころげただろうが、バリケードは表面に笑いを出さない事に何とか成功した。
カウンターに置いてあるミルクと砂糖を一つずつ取って戻る。
「どうぞ」
馬鹿丁寧にお辞儀しながらカップにそれを落とす。
ついでにスプーンでかき混ぜてやったのにスタースクリームはまだ不満げな顔をしている。
「まだ何かあるのか?」
思わず顔を顰めたバリケードにそれに負けず顰めっ面を返す。
「なんて気が利かないやつだ、砂糖は2個に決まっているだろう」
最初は小さく顔を引き攣らせる程度だったが、結局込み上げてきた笑いを抑えきれずにバリケードは吹き出した。
笑いすぎて息を切らしながら砂糖をもってくる。
「ほら、砂糖な、入れてやるよ」
子供に対するように言って、スタースクリームのカップに砂糖を落とす。
腹が痛いと首を振りながらバリケードは向かいに腰を下ろした。
スタースクリームはやっとコーヒーに口をつけ、一口飲んでからまだ苦いというような顔をする。
「なんだったらエネルゴンジュースでも飲むか?」
にやにやと笑いながらバリケードが言った。
「フレンジーやあのガキくらいしか飲まないだろ、あんなもの」
「スタースクリーム…フレンジーもバンブルビーもブラックで飲めるんだぞ」
ぐ、と言葉に詰まったスタースクリームは口の中でもごもご言ってカップに顔を埋める。
「ジュースを飲むのはオプティマスだ」
「…まさか」
「嘘だ」
スタースクリームが驚いた顔をするのに笑顔で頷いてバリケードはニュースの続きを読み始めた。
しばらくカップを弄んでいたスタースクリームは入ってきた通信にそれをテーブルに置いた。
ことりという音に顔をあげたバリケードはほとんど残っているコーヒーに目を遣って肩を竦める。
「砂糖もう少しいれてやろうか?」
ネット接続を遮断してから提案すると、スタースクリームは上の空で首を振った。
そのまま立ち上がって中央のモニターの前に行く。
立ったままかたかたとキーを叩くのを眺めてバリケードはその背中に声を掛けた。
「もらって良いか?」
「…なんだ?」
「コーヒーだよ」
「冷めてる」
「いいさ」
「好きにしろ」
ソファに座ったままスタースクリームの背中を眺める。
見えるのは忙しげに動く両手と時折モニターを見上げる頭の動きだけ。
話の内容までは聞き取れないが、モニターを見る顔とその声の調子は機嫌が良いとしかいえない。
興味がない、と言っていたのは間違ってはいないだろう。
彼の興味があるのは会議の中身、ではなく、彼の上司の補佐をすることだ。
指摘すれば怒るだろうが。
少し身を乗り出してカップを取ると、一口飲んでその甘さにバリケードは顔を顰めた。
「甘いな」
呟きはスタースクリームの耳には入らなかったらしい。
*2009/03/04