「嫌な色してやがる」
サンダークラッカーは夕陽をうけて赤一色に染め上げられた街を見下ろし呟いた。
偵察の帰り道、いつもなら割に好きな時間帯だが今日の夕焼けは何故か気にくわなかった。
自分の翼が同じ光をうけるのを顔を顰めて見やるとサンダークラッカーはトランスフォームして基地を目指して飛び立った。
割り当て範囲より随分遠くまで来ていたらしい。
嫌な光をそこら中に撒き散らしていた太陽も徐々に姿を消し始めている。
サンダークラッカーは気まぐれに湖の上で高度を下げてみた。
轟音と共に水を巻き上げた時、わぁっと声が聞こえた。
気のせいかと思ったが引き返してみると風に煽られて落ちたのか、ハウンドがびしょ濡れで顔を顰めていた。
何かぶつぶつ言いながら立ち上がり、こちらに気付くと驚いた顔をしてそれから慌てて武器を取り出す。
サンダークラッカーがトランスフォームするとハウンドは後退りして岸へ上がろうとした。
そこで急にハウンドの姿が消えた。
数秒後、咳き込みながら少し離れた場所に現れる。
びっくりしたようなその様子が可笑しくてサンダークラッカーはおもわずにやにやしてしまった。
ハウンドは照れたような困ったような顔をして、再び取り出した銃をしばらく迷ってからしまい込む。
「そんな笑うなよ」
岸に上がって水をはねとばしハウンドはまったく、と顔を顰めた。
「悪いな」
「おや、謝ってくれるのか」
サンダークラッカーが軽く肩を竦めるとハウンドは嫌味でなく笑った。
「明日は雨かな?」
冗談めかして言うと足元に転がっていた瓶を一、二…と小声で数えながら拾い上げる。
近くにあった一つを拾ってサンダークラッカーが渡してやるとぱちりとウインクを寄越す。
「水質調査だよ。ラチェットは人使いが荒くてね」
君は、と言いたげな視線に顔を逸らしてサンダークラッカーは湖の向こうの山に完全に姿を消そうとしている太陽を睨みつけた。
「帰るところだ」
山とサンダークラッカーとを見比べてハウンドは不思議そうな顔をした。
「そんな嫌そうな顔してどこへ帰るんだ、君は」
「基地に決まってんだろ」
「まあそうだろうけどさ…」
言い淀んでハウンドはすとんと腰を下ろした。
有無を言わさずサンダークラッカーの手をひいて隣に座らせると、真剣な顔を向ける。
「なにか悩みでも?」
「はぁ?」
最後の赤がハウンドの顔を僅かに照らしている。
「基地に帰るのが嫌な理由が?俺で良かったら聞くよ」
あまりに真剣なハウンドにサンダークラッカーはばかばかしくなってきた。
お人好しでお節介なサイバトロンめ。
「サイバトロンに心配されるようなこたぁねえよ」
ハウンドはまだ何か言いたそうにしたが、結局何も言わずに微笑む。
「じゃあ、気を付けて」
そう見送られて、飛び立った空にはいつの間にか大きな月が出ていた。
おかしなやつ。
敵をにこにこしながら見送って、しかも気を付けて、だと。
武器を向ける事すらしなかった自分は完全に棚上げにしてサンダークラッカーはハウンドを笑った。
しばらく飛んでいるとスタースクリームから通信が入った。
いきなり[どこほっつき歩いてんだ!]と怒鳴られる。
「今向かってるよ」
言い返すと後ろでスカイワープの声も聞こえた。
それをスタースクリームが煩い、とどなりつける。
[座標送れ]
ぶっきらぼうに言って通信が切れた。
サンダークラッカーは機嫌良く月に翼をふった。
悩みはあっても嫌な理由?そんなのあるわけない。
月の光は優しくすっかり気分も良くなったサンダークラッカーは早く帰ろう、とスピードを上げた。
*2009/02/22