midair





「くるぞ…!」
 地面が揺れている。
「ここでくい止めるのだ!決して先へ行かせてはならん!」
 腹の底に響く鈍い振動に一瞬ざわめいた戦士たちの間にアイアンハイドの声で緊張が走った。
 ぴんと張り詰めた空気。
 開戦までの時を刻むように高まる轟音の中でもアイアンハイドの声はよく通る。
「構え!」
 武器を構える、あるいは起動させる音が重なる。
 ごくりと誰かが息を呑む音がした。
 すぐ近くまで迫ってきていた土煙が横から吹いてきた風に晴れる。
「ひっ」
 堪えきれず一人が悲鳴を上げた。
「ブロウル…!」
 応えるように上がった咆哮が戦闘開始の合図だった。
 号令をかけながら真っ先に飛び出したアイアンハイドの放った銃弾がディセプティコンの一団の中へ突き刺さる。
 飛び散った瓦礫の中からブロウルが躍り出た。
 着地する前に数え切れないほど撃ち出された砲弾の半分は避け、半分は撃ち落とす。
「行くぞ!」
 叫んであっという間に距離を詰めたアイアンハイドの体当たりと至近距離から立て続けに叩き込まれる銃弾にブロウルが苦悶の声を上げた。
「この先へ行かせるわけにはいかんのだ!」
 反撃に移ろうとしたブロウルの身体を殴り飛ばしてアイアンハイドが吼えた。
 土埃の中で閃光が次々に弾ける。
 その光がスパークの消滅を表すものでないことを祈りつつ、片っ端から敵を粉砕する。
 この先の燃料基地へディセプティコンの侵入を許すわけにはいかない。
 時間稼ぎの戦闘ではない、敵の殲滅そうでなくても撤退を。
 戦力は五分。いや、少しばかりこちらの分が悪いかもしれない。
 重量級のやつらばかりを送り来んできやがった、と倒れたディセプティコンの頑丈な装甲を蹴り飛ばす。
 武運を、と見送った軍医を思い出しながらアイアンハイドは眼前の敵の胸を撃ち抜いた。
 運など所詮勝った者の戯言。戦場ではそんなもの通用しない。
 同じ口でそう言った癖に自分には幸運を祈るのだ、あの男は。
 思考を遮るように前方から迫ってきた砲弾を危ういところで避けてアイアンハイドは思い切り舌打ちをする。
 集中しなければ。
 余計なことを考えながら倒せるような相手ばかりとは限らない。
 もう一人敵を撃ち倒した時、絶叫が響いた。
 はっと振り返った瞬間、金属が無理矢理斬り裂かれる嫌な音とともに凄まじい熱量が弾ける。
 目を庇うこともせずにそれを見据えてアイアンハイドはぎり、と歯を食い縛った。
 激しい爆発の中でも見間違いはしない、二つ輝く赤い剣を。
 アイアンハイドは、無惨に身体を裂かれて掠れた悲鳴を上げながら小さく痙攣している仲間を見て呻いた。
 一瞬振り返ったレッケージは薄く嗤うとなんの躊躇いもみせずにその刃を振り下ろす。
 青い光が消えていく。
「…この野郎」
 アイアンハイドの身体の回りでちりちりと空気を焦がすように闘気が膨れ上がる。
 レッケージが目を細めて向き直った。と、不快そうに顔を顰める。
 その視線が後ろを見ているのに気付いてアイアンハイドが振り返ると地を揺るがしながらブロウルが突っ込んでくるところだった。
 全身の武器をアイアンハイドに向けて。
 しぶといやつ、と舌打ちして迎撃体勢をとる。
 射撃に移ろうとしたところでふいにレッケージが前へ出た。
「俺の相手だ、邪魔をするな」
「俺の!相手だ!」
 不機嫌そうにレッケージが言うと、ブロウルも負けず吼えるような口調で噛みつく。
 アイアンハイドに向けていた敵意をまるごとレッケージに向けて体当たりをかます。
 僅かに呻いてなんとか堪えたレッケージはブロウルの身体を掴まえたままその背中に剣を突き立てようとした。
 それを大人しく待っていようはずもない、邪魔をするものは全て敵と言わんばかりに振り下ろされたクローをすんでのところで避けてレッケージは鼻をならした。
「こないだは俺が折れたんだぞ」
「知るか!」
「今日は譲らん」
 言葉と共にレッケージを包む殺気が膨れ上がり、それに呼応するように剣が禍々しく輝きを増す。
 対するブロウルの顔も怒りに歪み一斉にミサイルが発射される。
 耳を聾するような凄まじい爆発。
 一瞬後の爆風に思わず顔を背ける。
 アイアンハイドが顔をあげるとブロウルが爛々と目を輝かせて吼えていた。
「お遊びは終わりか?」
 いっそ同士討ちでもしろ、と思いながら吐き捨てる。
 返答は次々に飛んできた銃弾。
 勢いよく地面を蹴って突っ込みながら両腕のカノンにエネルギーを充填し間髪入れずに撃ち込む。
 それがかわされたと見るや体勢を整えて衝撃波を放つ。
 まるで応えた様子もなくブロウルがトランスフォームした。
 発射された砲弾はアイアンハイドの後ろに転がっていたディセプティコンに突き刺さり、細かな破片が背中に降り注ぐ。
 背後から飛んできた装甲の破片に刻まれたエンブレムを一瞥してアイアンハイドは肩をすくめてみせた。
「もう少し射撃の腕を磨いたほうがよさそうだな。狙いは正確に…だ」
 こんな風にな、とカノンが火を噴く。
 ブロウルは吹き飛ばされる途中で変形すると地面にクローを突き立てて堪える。
「そらまだだぞ!」
 仕上げとばかりに銃撃を浴びせてちらりと情勢を確認する。
 タイミング良く部下からの雑音混じりの通信。
[援軍が!500アストロセカンド後に到着!]
 ブロウルが立ち上がらないのを確認してアイアンハイドは知らず止めていた息を大きく吐き出した。
「了解、それまでもたせるんだ!」
 援軍の報せを受けた味方は俄然勢いを取り戻していた。
 よし、と頷いて走り出そうとした瞬間冷たい殺気が降ってくる。
 はっとして後ろに飛び退ると先の爆発にダメージこそ負っていないもののボディを少し汚したレッケージが剣を振り下ろすところだった。
「選手交代といこうじゃないか」
 笑いの形に顔を歪めてレッケージは楽しそうに言った。




*2009/02/05
*2009/06/23 加筆修正