「…そういえば昨日お前のとこのエネルゴンもらった」
ふと思い出したようにブリッツウィングが呟いた。
「知ってる!少し黙ってろ!」
乱暴に言い返されてブリッツウィングは肩を竦める。
顔を歪めたアストロトレインは悪態をつきながら流れ出るオイルを止めようと必死になっていた。
「凄い顔だぞお前」
痛みなどまるで感じていないような顔で暢気にブリッツウィングは言い放った。
「うるせぇ!しゃべんな、くそっ止まれ止まれ…!」
「なあもう良いってば。それよかお前戻れよ」
「良いわけあるか!グレン!グレン!…てめぇ死んだら絶対許さないからな」
「何でだよ?」
「何でもクソもあるか!こんなの喰らいやがって!」
アストロトレインは絶望的な気分で相棒を眺めた。
指を汚すオイルはすでにブリッツウィングの身体の回りに池を作っている。
後から後から流れ出すそれは確実にブリッツウィングの命を削っているに違いないのに、まるで気にする風もなく喋り続けるブリッツウィングの態度はアストロトレインを苛立たせるだけだった。
…諦めているようで。
足掻く事もせずに。
そんなのは許せない。
死にたくないと喚かれるのも違うとは思うが、僅かの執着も見せないのは腹立たしかった。
置いて行かれるのなんかまっぴらだ。
命は永遠ではない。皆いつか死ぬ。そんなことは知っている。
だが、今じゃない。
アストロトレインは歯を食い縛って、流れ出すオイルを掌で押さえ続けた。
轟音に掻き消されまいとグレンを呼び続けた。
「すまん、遅くなった」
駆け付けたグレンはブリッツウィングを見て顔を顰めた。
「おいおいそんな顔すんなよ。傷は浅い、とか言えよ」
ブリッツウィングはグレンの顔を見て笑う。
擦れた声にオイルのごぼごぼ言う音が混じった。
「言って欲しいのか?」
鼻を鳴らしてグレンはブリッツウィングの傷を調べ始めた。
「アストロトレインは戦線に戻れ」
言い返そうとした瞬間グレンに指を突きつけられる。
「お前に出来る事は今はない」
ぐ、と悔しそうに顔を歪めるとアストロトレインは渋々頷いた。
「頼む」
縋るような目で見られてグレンは苦笑した。
「んな顔するな。任しとけ」
「お前こそやられるなよ」
にっと笑ってブリッツウィングはひらひら手を振る。
それに中指を立てるとアストロトレインは戦闘に向かった。
サイバトロンを文字通り弾き飛ばしながら怒りの咆哮を上げたアストロトレインを面白そうに眺めてからブリッツウィングはグレンを見上げた。
「…なあ俺死ぬのか?」
「さあな」
「アストロトレインは怒るだろうな」
げほっと咳き込んで溢れ出たオイルにブリッツウィングは驚いた顔をした。
「ははっほんとにやばいな、こりゃ」
「わかったら黙ってろ」
グレンはひとまずブリッツウィングの腹の傷を塞ごうと手をリペア器具に変えた。
その瞬間近くにミサイルが着弾し、吹き飛ばされた瓦礫がそこかしこに降り注ぐ。
舌打ちしてグレンはとにかく早く傷を塞がなくては、とブリッツウィングに向き直った。
と、そのブリッツウィングががばっと身体を起こしてグレンを押し退けた。
「おい?!」
ドン、ドン、ドンとブリッツウィングの銃が連続して火を噴く。
顔をあげたグレンは迫ってくるコンクリート片がその直撃をくらって飛び散るのを見た。
「危ねぇぞグレン、ぼさっとしてっと」
どさっと倒れ込んでブリッツウィングは大きく息を吐き出した。
「あーやべぇ…なんか…ねむ、い」
「ブリッツウィング!寝るな!」
慌ててグレンはブリッツウィングを揺さ振った。
「ん…でももう痛くねぇし…眠いし…」
「寝たら殺すぞブリッツウィング!今塞いでるから絶対寝んじゃねぇ!」
「殺すって…おかしなやつだな」
ちょっと寝るくらいいいだろ、と呟くとグレンの制止を無視してブリッツウィングは眼を閉じた。
*2008/12/30