せっかくのクリスマスパーティなのに一人ホールの隅でエネルゴンを飲んでいるファーストエイドに気が付き、ブロードキャストはしばらく考えた後で話しかける事にした。
「ああ…ブロードキャスト」
力無く笑うとファーストエイドはブロードキャストに椅子を勧めてくれる。
「元気ないねぇ。何か心配事?」
尋ねてみるとファーストエイドは一瞬泣きそうに顔を歪めた。
それを見てブロードキャストは小さく溜息をついた。
「ダージ、か」
それを聞いたファーストエイドはびくりと肩を震わせて顔を背けた。
泣かせたら許さないって言ったのに、内心呟いてブロードキャストはファーストエイドが話し出すのを待った。
「どうしていいかわからないんだ…」
俯いたままファーストエイドはぽつりと言う。
「ずっとおかしくって、ぽっかり穴が空いたみたいに凄く…凄く寂しい」
ファーストエイドがダージの話をするのはどれくらいぶりだろう。
ざっと記憶を辿ってブロードキャストは顔を顰めた。
ファーストエイドはいつからかブロードキャストにダージの話をしなくなった。
以前は嬉しそうに話してくれたのに。
笑顔を見せる事も減って、代わりによく泣きそうな顔をする。
「会うだけで、それだけで充分だった」
乱暴にエネルゴンを呷る仕草はファーストエイドには似合わない。
「でもそれだけじゃ足りなかった。相手はそんなんじゃないって分かってたのに」
どうしたら良かったんだろう?
震える声に問い掛けられてブロードキャストは唇を噛んだ。
彼には答えられない。
「分かってなかったんだ、どういうことなのか。きっと…好きになっちゃいけなかった」
そういうとファーストエイドは無理矢理明るい声を出した。
「ダージが言ってた通りだった。私達は会わない方が良かったんだ」
ブロードキャストはファーストエイドを見つめた。
「ほんとにそう思ってるの」
ファーストエイドは小さく笑った。
そんな笑い方も彼には似合わないのに。
「前は思ってなかった。ダージに会えて後悔なんかしたことなかったよ。…でも今は時々思う」
自嘲するような言い方にちくりとした痛みを感じてブロードキャストは息をもらした。
ブロードキャストはもっと上手くいくと思っていた。
なんとなくだが、そういう気がしていたのだ。
二人はお互い惹かれあっていると傍から見ていれば一目でわかる。
ただ、互いの境遇が問題なのだ。
ダージはそれを理解しているから臆病ともとれるほど慎重で、ファーストエイドの視線に込められた想いにわからない振りをしている。
でもサイバトロンだのデストロンだのがそんなに重要な問題だろうか。それよりももっと大切なことがあるのをダージは何故わかろうとしない。
無性にダージに対して腹が立ってきてブロードキャストは思わず机を叩いた。
あんなやつ、忘れてしまえ。
ファーストエイドの驚いたような顔に思わずそんな言葉をぶつけようとして、彼は苦虫を噛み潰したような顔でそれをエネルゴンごと飲み込んだ。
顔を見ればわかる。ファーストエイドはああ言ったけれど、本心ではそう思ってはいないことくらい。
心が、泣いている。
だから…忘れてしまえなんて口が裂けてもブロードキャストには言えない。
「行こう」
だん、とグラスを叩き付けるように放って、ファーストエイドの腕を掴む。
「行くって、どこへ?」
「ダージのところ」
ファーストエイドが絶句した瞬間、基地にサイレンが鳴り響いた。
デストロンの出現を知らせる警報に和やかなムードが一気に張り詰める。
モニターに駆け寄ったアイアンハイドが舌打ちをしてコンボイを振り返った。
「クリスマスだってのに、デストロンの奴ら」
「全くだ…」
哀しげに同意してコンボイは号令をかける。
「ちょうど良い、戦闘中にダージを捜してごらんよ」
走り出す直前ファーストエイドにブロードキャストは囁いた。
投げられたウインクを呆然と見送ってファーストエイドは溜息混じりにゆっくりトランスフォームした。
クリスマスの楽しみを奪われたことを嘆く仲間達の後ろを走っていた彼は、上空を過ぎる微かなエンジンの音に気が付いた。
先を急ぐ皆は気付いていないらしい。
躊躇ったもののファーストエイドは一人向きを変えて音を追う事にした。
聞き間違えでないことを祈りつつも、彼はそれが絶対に間違っていないことをどこかで確信していた。
早く、早く。
先走る心にタイヤがついていかない。
石に乗り上げて転倒しかけたファーストエイドはつんのめるようにトランスフォームして走り続けた。
見上げた空の雲が切れて青い機体が目に飛び込んでくる。
夢中でファーストエイドは叫んだ。
*2008/12/26
*2009/09/06 加筆修正