midair





「っくしょん!」
 ずる、と鼻をすすってスラストは装甲に染み込んでくる寒さから身を護るように身体を抱き締めた。
 真っ白な息がもれて冬の澄んだ空気の中へ消えていく。
 背後の工場からはエネルゴンキューブをつくる一連の騒動が聞こえてきて、独りで見張りをしているというのけ者にされたような寂しさが一層募る。
 そんなに楽しそうにやらなくてもいいじゃないか、と拗ねた考えを抱きながらスラストはぶるりと身を震わせた。
 サイバトロンの連中は気付いていないらしい。
 それもそうだろう、世間はクリスマスだ。
 地球の文化に親しみを持っている連中のこと、当然一緒に祝っているだろう。
 とは言えデストロンにも昨日まではそこはかとなくクリスマスムードが漂っていた。
 はっきりとはわからないがなんだか気分が浮つくような、そんな不思議な感覚。
 誰が始めたんだか基地に飾り付けがされていたり、ケーキなんかも作ったりしてそれなりに楽しかった。
 クリスマスでも仕事を休む事はない情報参謀のおかげで一気に我に返ったようなところもある。
 最もこうやっているほうがよほど俺達らしいが、と苦笑したところでスラストは雪を踏み分けて近付いてくる足音に気が付いた。
「差し入れだ」
 振り返るとできたてのエネルゴンキューブを二つ抱えたダージが笑っていた。
 放って寄越されたキューブを掴むとまだ温かい。
「ありがとよ」
 ふうっ、と息をついてスラストは礼を言った。
 滑り落ちていったエネルゴンがぽかぽかと身体を温める。
 いつの間にか工場の騒ぎは宴会モードに入ったらしい。
 明らかに仕事そっちのけの声に、いいのか?と視線を向けるとダージは肩を竦めた。
「そういう気分じゃない」
 少しそっぽを向きながら呟く。
 ぶっきらぼうな言い方に少し頬を緩めてスラストは頷いた。
 もう一度小さく礼を言うと頭を軽く叩かれた。全く素直じゃない。


 見張りなどそっちのけでぼんやり空を眺めていたスラストはひらひらと落ちてくるものに気が付いた。
 座り込んだスラストの隣、直立不動で見張りをしていたダージがスラストの声に顔をあげる。
「雪か…」
 ぼそっとつぶやくとダージは顔を顰めた。
「なんだよ、いいじゃねえか雪。お前嫌いだっけか?」
 雪が嫌いで顔を顰めたのかと思ったがそうではないらしい。
 スラストの言葉に笑ってダージは首を振った。
「雪は好きだ。…ただちょっと違う事考えててな」
 ふーん、と相槌を打ってスラストは肩に薄く積もった雪を払った。
 ダージもぶるりと身体を振る。
「積もるかな」
 だんだん勢いを増し始めた雪を見上げてスラストが言った。
「さあな」
 積もると良いな、と微笑むとダージは手を伸ばしてスラストの頭の雪を払う。
 珍しく苦笑ではない柔らかな笑みにスラストは言おうと思った言葉を忘れた。
 ダージは淡い微笑の名残を残したまま視線を彼方へ向ける。
 スラストが何処を見てるんだ、と聞こうとした時どやどやと大勢がこちらへやってきた。
「おーいスラスト、ダージ生きてるかぁ?」
「雪だぜ雪!」
「うひゃー冷てー!」
 明らかに酔っ払っている仲間にダージはいつもの苦笑を浮かべた。
「よーし、お前らも飲め!」
 な、な、とあまり呂律の回っていない調子でラムジェットが言いながらエネルゴンをスラストに押し付ける。
 足の縺れたスカイワープが転んだのに端を発して向こうでは雪合戦が始まっている。
 スラストは吹き出してラムジェットを雪の中に転がした。
「ダージ!ラムジェット埋めるぞ!」
「よしきた」
 どさどさと容赦なくラムジェットの上に雪をのせるダージに笑いながら、スラストはふと思い出した。

 さっきダージが見ていた方にはサイバトロン基地がある。

 雪まみれのラムジェットの抵抗に、スラストの考えはそこで打ち切られた。




*2008/12/24
*2009/09/05 加筆修正