「ドロップキック」
急に声を掛けられてドロップキックはゆっくり振り返った。
戦闘に向かおうとする兵士達でごった返す廊下は二人が立ち止まったせいで後がつまる。
逸る兵士達の怒声を気にした風もなくペイロードはドロップキックに尋ねた。
「お前は行かないのか」
頷くと、ドロップキックの肩を叩く。
「丁度いい」
何が丁度いいのか知らないが、ペイロードはドロップキックに聞き返す暇も与えずぐいぐい後ろから押してくるものだから前へ進まざるを得ない。
押し退けられて迷惑そうな顔をする兵士達を睨み返してドロップキックは人混みを抜け出した。
ついて来い、と言ったきりペイロードはなにも言わない。
前を行く背中を眺めながらドロップキックも黙って歩く。
部隊の違うペイロードとの任務は当然あれ一度きりで、ペイロードと会う事もなかった。
なのに突然なんだろう。
また任務だろうか、と考えてドロップキックは柄にもなく胸を弾ませた。
以前は輸送などつまらない、戦っている方がよほど楽しいと思っていたが、ペイロードとの任務は違った。
戦況の変化も確かにあるだろう。
オートボットの積極的攻撃など、ドロップキックが以前輸送をした時には無かった。
軽く死にかけたが、敵が襲ってくるのを返り討ちにするのは楽しい。
いや、それは建前かもしれない。
ドロップキックは落としていた視線をまたペイロードの背中に向けた。
要するに自分はこの男が気に入ったのだ。
その闘い方も好きだった。
見捨てられなかった事に恩も感じているし、どんな男なのかもっと知りたいとも思う。
と考えたところで少し恥ずかしくなってドロップキックは首を振った。
ペイロードが立ち止まり、ドロップキックを振り返って目を瞬かせた。
「こういう時はバーの方がいいのか?」
少し困ったような声で言う。
「こういう時?」
「つまり…」
しばらく待ったがペイロードは上手い言葉が見つからなかったらしい。
まあいいか、と呟くと扉を開けた。
「入れ、少し話がある」
ペイロードの部屋はおよそ生活感が無かった。ドロップキックの部屋よりはましだが。
普段使わないのか、テーブルには椅子が一脚しかなく他のは部屋の隅に積まれている。
ペイロードはそこから椅子を持ってくると、座るよう勧めた。
「エネルゴンは飲めるな?」
ドロップキックが頷くとペイロードはグラスを二つ持って向かいの席に腰を下ろした。
「今の部隊は気に入っているか」
当たり障りの無い話題を挟まずに用件に入る。
天気の話でもしてきたら面白かったのに、とドロップキックは笑みを浮かべた。
「正直に言え、別にそれによって処罰するなどということはしない」
付け加えるとペイロードは返事を待つように小首を傾げた。
「何処にいても同じだ。やる事はどうせ一つだけ」
そうだろう、とドロップキックは小さく鼻をならした。
「戦闘は好きか?」
「オートボットを蹴散らすのは何時でも楽しいさ」
ふむ、と考えるように唸ってペイロードはしばし黙る。
「俺はお前が欲しいと思っている」
唖然としてドロップキックはペイロードを見つめた。
欲しい、とは?
理解出来ずに固まっているドロップキックにペイロードは大真面目な顔で続ける。
「お前は役に立つ。戦闘部隊に未練が無いならば、輸送部隊に来い」
ドロップキックは大きく息を吐き出した。
「しばらく考える時間が必要ならそれでも良い。お前の好きな方をとれ」
ペイロードはその赤い目を瞬かせて言った。
「輸送か…」
呟いてドロップキックはくつくつと喉を鳴らした。
「俺が断ると思うのか?」
ペイロードはゆっくり首を振った。
*2008/12/22