給油のためにたまたま立ち寄った辺境の星。
整備が終わるまでの暇潰し、とオクトーンはごみごみした街を歩いていた。
大通りは活気に溢れ、色々な星人が通り過ぎていく。
通りの脇に並んだ屋台をひやかしていると、ふと狭い路地に出ている看板に気付いた。 言われた時間にはあと小一時間ほど。
飲んで潰すには丁度いい。
オクトーンは人混みを掻き分けてその路地に入った。
バーの中は薄暗く、人もまばらで。
カウンターの向こうで無愛想なマスターがむっつりと頷く。
これからの道行きのことを考えて弱めのエネルゴンを頼んだ。
後ろに小さく流れている音楽はどこかで聞いた事があるような気がする。
何の曲だったかな、とオクトーンがぼんやりと考えているとことり、と目の前にグラスが置かれた。
「…頼んだのと違うぞ?」
置かれたのは色の濃い、かなりきつめのエネルゴンだった。
「あちらのお客様が」
指差す方に顔をやってオクトーンは声を上げた。
「ブリッツウィング?!」
「ん、元気か」
ひらひらとブリッツウィングは手を振り、自分のグラスを持ってオクトーンの隣に腰掛けた。
「こんなところで会うと思わなかったぜ」
笑うブリッツウィングのボディは酷く汚れ、傷付いている。
「お前どうしてたんだ?」
「色々」
ブリッツウィングは肩を竦めただけだった。
「オクトーンこそ何してるんだ?」
「船の整備と給油にな、寄っただけだ」
強いエネルゴンを飲もうかどうしようか迷っていたので、オクトーンはブリッツウィングの顔に浮かんだ表情に気付かなかった。
「…任務、か?」
その影はすぐに消え、ブリッツウィングはごくさりげない調子で尋ねた。
「いや、違う…お前知らないのか?俺も今はデストロンじゃないぜ」
結局少しだけ飲む事にしてオクトーンは答えた。
オクトーンの答えに目を見張ってブリッツウィングは首を傾げた。
「愛想がつきた、ってか?」
「そんなとこだな」
苦笑してオクトーンはエネルゴンを飲んだ。
「…っあー、これきっちぃな」
あーとかうーとか呻くのにブリッツウィングは笑ってオクトーンのグラスを取り上げた。
「じゃあこっちは俺がもらう。もっと弱いの出してやってくれ」
運ばれてきたエネルゴンで一息ついて、オクトーンはブリッツウィングの飲みっぷりを感心したように見た。
「お前そんなに強かったっけ?」
「オクトーンが弱いんだろ」
吹き出したブリッツウィングにつられてオクトーンも笑う。
しばらくお互いの近況なんかを話していると、あっという間に時間が過ぎていった。
「そろそろ整備が終わる時間だな」
時間を確認してオクトーンは立ち上がった。
「どうする。お前も一緒に来るか?」
少し考えてからブリッツウィングは頷いた。
奢ってやる、というブリッツウィングの言葉に素直に甘える事にして、オクトーンはバーの外で待っていた。
吹き抜けていった風の冷たさに身体を竦めるとブリッツウィングが出て来た。
「行くか」
連れ立って二人は発着場へ向かった。
鼻歌交じりに歩きながら、オクトーンは船に帰る前にブリッツウィングにご馳走できるようなものを買うか、と思い付いて目についた店を覗いた。
「ちょっと寄っててもいいか?」
言い置いてブリッツウィングを残して店へはいる。
適当に選んだ食べ物をくるんでもらって金を払おうとしたところで、ウィンドウ越しにブリッツウィングと目があった。
手を振って笑う寸前にブリッツウィングのバイザーに映った殺気のような光にオクトーンは首を傾げた。
「ちょっと」
苛立ったように金を催促されて慌てて金を払う。
店から出た後、先ほどの光に少し不安を感じてオクトーンは改めてブリッツウィングを眺めた。
酷く汚れている、とバーの薄暗い照明の下では思ったが、よく見るとそれは飛び散ったオイルだった。
オイルに混じってついているどす黒い赤や緑のものは血だろうか?
ひっかき傷のようなものも全身にある。
とりわけ深く抉られた左足の傷は、爪のような筋で残っていた。
身体はそんな状態だが背中の大砲は新品のように輝いている。きっと銃や剣も同様のはずだ。
デストロンを離脱してから自分は船で行動していたが、ブリッツウィングは身一つで切り抜けてきたのだろう。
しかし相変わらず無頓着だ。
武器だけでなくボディにも気を遣えばいいのに、と思った時腰に冷たい感触。
ブリッツウィングのことを考えながらその後を適当について歩いていたオクトーンは、腰に突きつけられた銃に我に返った。
焦って辺りを見回すと発着場とはまるで見当違いの場所に来ていた。
「おい、ブリッツウィング?」
どうしたんだ、と言おうとした口元に銃を当てられる。
「どうも信用できなくてな」
ブリッツウィングの顔に浮かんだのは先ほどちらりと掠めた殺気に似た気配。
「ガルバトロンの指図か?」
「何言って「どうなんだ」
オクトーンの言葉を遮ってブリッツウィングは胸倉を掴む手に力を込めた。
「俺を、殺しに来たんだろ?」
がしっと喉を掴まれて、必死に空気を吸おうと喉が擦れた音をたてる。
「ブリッ…ィ…グ!」
苦しくて伸ばした手がブリッツウィングの腕に爪痕を残す。
違う。
違う、違う!
叫びたいのに容赦なく締め付ける指はその答えすら言わせない。
「…お前が来るとは思わなかったぜ、スウィープスでも寄越すかと思った」
唐突にブリッツウィングの力が抜けた。
どすんと尻から地面に落ちてオクトーンは咳き込んだ。
目の前がちかちかする。
「せめてサイクロナスとか、コンバットロンかスタントロンのやつらとか」
口の端を伝う体液を拭って見上げた先にブリッツウィングの剣。
その凶悪な輝きとブリッツウィングの指先を汚す自分の鈍く光るオイルがやけに印象的で。
最後の景色としちゃ悪くない、とオクトーンは半ば受け入れている自分に気付く。
殺意に溢れた顔で酷く哀しげにブリッツウィングが溜息をついた。
「アストロトレインかお前だけは絶対に来ないと思ってた。…そんなにガルバトロンの報酬は高かったのか?」
ぎちりと剣を握る手に力がこもる。
「言い訳もしないのかよ」
らしくない震え声。
躊躇うようにバイザーの奥で光が揺れた。
「言い訳もなにも、最初から言ってるだろうが」
目の前に突き出された剣を睨み返してオクトーンはそれを掴んだ。
「相変わらず人の話を聞かない奴だ」
立ち上がって目を覗き込むと、ブリッツウィングは一歩後退った。
「俺が、お前を殺せると思うのか?もし殺るんだったら無駄話なんかしねぇでとうの昔に不意打ちでやってるさ」
「でもお前がデストロンを抜けるなんて…」
「ありえねぇってか?お前だってそうだろうが」
ああ痛い、と喉をさすってみせるとブリッツウィングは頬を膨らませた。
「謝んねぇぞ」
ふっと笑ってオクトーンはブリッツウィングの頭を小突いた。
「一緒にくるだろ?」
しばらく考えてブリッツウィングが頷く。
「でも…いいのかよ?」
「急に遠慮がちになるのやめろよな。お前にも働いてもらうんだから気にすんな」
「働く?」
「荷物運びとか、護衛とか。ほら、追っ手を返り討ちにする、とか。得意だろ」
「嫌味な言い方すんなよ…」
また膨れっ面をするブリッツウィングを振り返ってオクトーンは手招きする。
「早く来いよ、とっくに船の整備は終わってるんだ」
*2008/12/05
*2009/01/26 加筆