midair





 引きちぎれた腕が火花を散らしている。
 返事を待たずに通信を切った後、ドロップキックは全身の痛みに顔を顰めつつスキャンを始めた。
 爆弾を投げ込んでくるなんて、オートボットのやつらもそれなりに必死だという事だ。
 反応が遅れていたらこんなものでは済まなかったかも知れない。
 バラバラになって死ぬなんてぞっとしないな、と苦笑して送られてくるエラー報告を処理する。
 そういえば荷物は無事だろうか。
 爆弾を放り出すのに気をとられて忘れていた。
 ペイロードはメガトロン直々の、と言っていた。
 今死ななくても作戦に差し支えたから、と罰をうけるかもしれない。
 それに仮にも上官であるペイロードを呼び捨てにしたからそっちで処罰されるかもな。

 人ごとのようにそう考えるとドロップキックは自己回復中特有のけだるさに身を任せた。


 ふいに身体が浮くのを感じてなんとなく死んだのだ、と思った。
 あれだけの損傷だったから回復が追いつかなかったのかもしれない。
 死んでも世界は真っ暗で、少し安心した。
 散々付き合ってきた暗闇はドロップキックの唯一の友で、彼を裏切らない唯一のものだった。
 ドロップキックと階級を同じくする兵士達は彼を変わり者扱いして遠巻きにし、ドロップキックもそんな周囲と馴れ合う気は起きなかった。
 実際ディセプティコンでの変わり者、というレッテルは則ち最もディセプティコンらしい、ということでもあるのだが。
 下っ端の戦闘員の間ではそうは受け取られず変わり者はただの変わり者で、自分達とは異質の存在、と見られていた。
 それにはドロップキックの醸し出す空気とその皮肉気な言動が拍車をかけていた。

 ドロップキックの世界を構成するのは自分以外のもの全てへの怒りと、戦闘と任務、そして暗闇である。
 そこへ入り込んできたのはメガトロンと、ペイロードだけだった。
 他にも接触してきた者はいただろうが、ドロップキックの記憶からは消し去られていた。
 メガトロンは巨大な闇だった。
 全てを食い尽くす絶対的な闇。対照的な銀色が目を背けたくなるほどの光を放つ。
 大帝と目が合った時、ドロップキックは闇の深淵を垣間見た。
 深く深く、どこまでも暗い
 ドロップキックは何時にない感情の高ぶりを覚えたものだ。
 彼にとってメガトロンは至高の存在とも言えた。

 それを思い出して溜息をもらしたドロップキックは先ほどから緩い振動が伝わってくるのに今さらのように気付いた。


「起きたか」
 声に目を開く。
 物静かでいて強いそれはペイロードのものだった。
 死んでいなかったのか。
 貨物の間でドロップキックは右手を顔の前にかざした。
 辛うじてくっついた腕に軽く力を込めてみる。
 背中も大分良いようだ。少なくとも動くのに支障はないほどに。

 ペイロードがスピードを落としてがたりと扉が開いた。
 外に出て緩く身体を動かしてみる。
「お前のだ」
 聞こうとしたことを先に告げてトランスフォームしたペイロードはぽいっと貨物を寄越した。
 ドロップキックは右手で受け止めてみて反応が追いついてきた事を確認する。
 それを見届けてペイロードは頷いた。
「遅れたか?」
 今度は並んで走りながらドロップキックはペイロードに尋ねてみた。
 自分がどれほどの間落ちていたのかわからなかったからだ。
「問題ない」
 簡単に返事を寄越すと、ペイロードはドロップキックにデータを送ってきた。
「…あと僅かか」
 送られてきたデータの解析を終えて現在地を掴んだドロップキックは呟いた。
「もう襲撃もないだろう」
 ややスピードを上げながらペイロードが返す。
 それがからかうような調子なのに気付いて、ドロップキックは小さく笑った。
「細切れにならずにすみそうだな」
 ドロップキックの軽口に低く笑い声を上げてペイロードは車体を揺らした。

 遠くに戦場の明かりが見えてきた。




*2008/11/19