前に飛び出してきた影にもペイロードは全くスピードを緩めることなく走り続けた。
影がトランスフォームを終える前に突っ込んだペイロードのタイヤが深く抉る。
低く呻いたオートボットの兵士はそれでも攻撃体勢に移った。
僅かの逡巡もなくトランスフォームしたペイロードは最初の一発が放たれる前にそのオートボットの息の根を止めていた。
的確に叩き込まれた重いパンチはオートボットの装甲を突き破りスパークを握り潰していた。
青い光が瞬き、瞬間、命の煌めきは虚空へと帰す。
がちゃりとオートボットだったものを地面に落とし、ペイロードはそれを無表情に眺めた。
ドロップキックは自分とは関係ないとでも言うようにそれを眺めていたが、ふと目を遠くへやった。
「来たぞ」
軋む声が告げてペイロードは顔をあげた。
その声は耳障りに響きもしたが、ある種心地良くもあった。
ドロップキックを見ると見返してきた顔にちらりと笑みが走る。
響いてきた音からすると一個隊をぶつけてきたらしい。
前線にはどうやってもやらないつもりか。
この辺りは廃墟だから戦場には都合がいい。
オートボットどもの墓場には良い場所だろう。
走り出したペイロードの隣にドロップキックが並ぶ。
「突破だ。邪魔をする者は蹴散らせ」
返答はないがエンジンの音が喜ぶように高まる。
「ここから先へは行かせないぞ」
叫んだオートボットを嘲笑うように轢いて、すれ違いざまに連射を浴びせる。
苦しげに歪んだ顔をドロップキックが擦れた笑い声と共に撃ち込んだビームが斬り裂く。
続いて上がった火柱にペイロードは込み上げてきた笑いを抑えきれなかった。
炎を受けたオートボットどもの顔に浮かぶ僅かな恐怖を愛しむような目で眺めてペイロードは肩を揺らした。
唸るようにもれた笑い声を聞いたのは近くにいたオートボットただ一人だったが、それがそのオートボットの最後の記憶となった。
身を翻したペイロードに素早くドロップキックも続く。
半分も戦力を削ってやったオートボットどもは追い掛けてはこないだろう。
ドロップキックはやや名残惜しそうな様子をみせたが、輸送任務に携わった事がないわけではない。
輸送においての最重要事項は、一刻も早い物資の供給であり、戦うことではないのだ。
最低限の戦闘で敵を倒し物資を運ぶ。それが任務。
ペイロードは的確に敵のリーダー格を見抜いて倒す事で、敵の士気を挫いた。
並みの兵士とは比べものにならないほどの戦闘力を誇りながらも、戦闘に酔うことなく冷静に自分の任務を遂行する。
そこがメガトロンに信を置かれる所以でもあるのだ。
暗闇にとけそうな車体を追い掛けながらドロップキックは荷台に積んだ荷物が急に重くなった気がした。
今さら責任の重さを感じているのか、と自嘲気味に笑って振り向いたところで凍りつく。
「ペイロード…ッ!」
先を行くペイロードがその切羽詰まった響きに何事かと振り返った時、辺りが白い光に包まれた。
爆風に巻き込まれたもののペイロードはすぐに体勢を立て直した。
辺りは何事もなかったかのように静かだ。
自爆か?
一瞬の後その答えを打ち消す。
遠くに去っていく明かりが目に入ったからだ。
さてドロップキックはどうしたろう?
車体にミサイルでもぶちこまれたか。
メガトロン様に『よくしてやれ』と言われたのを思い出して溜息をつく。
探してやらねばなるまい。たとえ一部でも。
センサーに救難信号が飛び込んできた。
生きている事は生きているらしい。
[どこにいる]
[わからん。瓦礫の下だ]
[…]
辺りを見回した沈黙を別の意味に受け取ったのか、ドロップキックは躊躇いがちに言ってきた。
[置いていけ]
*2008/11/14