midair





 重い足音と共に姿を現したペイロードは恭しくメガトロンの前に膝を折った。
 聞く者に畏怖を覚えさせる重厚な声の下す命令を聞いて、ペイロードは珍しく顔をあげた。
「今、なんと…?」
 その声の調子にメガトロンはくつくつと喉を鳴らした。
「ドロップキックを連れて行け、と言ったのだ」
「…は」
 自分の聞き間違いでない事を確認すると、ペイロードは黙ってそれに従う。
「よくしてやれ」
 ペイロードはメガトロンの真意を測りかねたものの、頷いて退出した。

 メガトロンがペイロードを呼びつけて自ら命令を下すというのは珍しい事であった。
 覚えはないが、信を損なう事をしただろうか。
 それともそれだけドロップキックというやつに目をかけているということなのだろうか。
 どちらにしても自分などに破壊大帝の御心などわかるはずがない。
 無駄な事に思いを巡らせる必要はない。ただ命令に従うのみだ。

 まずはドロップキックを探さなくてはならない。
 ペイロードは彼の事を名前程度しか知らなかった。

 廊下ですれ違った兵士を呼び止めて尋ねると、相手は少し戸惑った様子をみせた。
「ご存じないのですか?」
 知らないから尋ねているのだ、と内心思いながら頷くと廊下の先を示して部屋への道を教えてくれる。
 礼を言って行こうとすると、ペイロード様、と呼び止められた。
 振り向くと呼び止めた兵士は何か言おうとして口ごもる。
「なんだ」
「い、いえ、…失礼致しました」
 結局何もいうことなく頭を下げるのに首を傾げてともかく部屋を目指す。

 平の兵士たちの居住区にそれなりの地位を持つ者が姿をみせるのはたいていの場合、兵士が余程の事件を起こしたかよっぽどの緊急事態であるかのどちらかだから、ペイロードの姿を認めた者達は彼を驚きと興味の色で見送った。
 その視線を気にも留めず、ペイロードはある扉の前で立ち止まった。
 部屋の番号が教えてもらったものと同じであるのを確認してノックする。

 しばらく待っても答えがないのでもう一度ノックしようと手を挙げた時、遠巻きに見守っていた者達の中から進み出た者があった。
 訝しげにそれを見やると、興味津々なのを隠そうともせずに口を開く。
「やつに用ですか?」
 頷くと仲間と目を合わせて肩を竦める。
「無理矢理入りでもしないと話はできませんよ」
「そうか」
 まだ話したそうなのを遮ってペイロードは扉を押し開けた。
 何をしでかしたのか、と半ば悪意に満ちた興味を満たしてやるつもりなどない。


 踏み込んだ部屋の中は暗かった。
 そして静かだ。
 アイセンサーの出力を調整すると部屋の様子を探る。
 支給された机と椅子、それに寝台の他には私物を持ち込んでいないようだ。
 寝台の上に踞る影。

「ドロップキックか」
 ゆっくりと顔をもたげたそいつは警戒するように身動きした後、頷いた。
 こちらを見定めるようにバイザーが輝きを増す。
「…誰だ」
 擦れた声が尋ねる。
「ペイロード」
 ぎしりと寝台を軋ませたがドロップキックは立ち上がりはしない。
 身分を重んじる者ならその無礼を許しはしないだろうが、ペイロードはそんなことを気にする性格ではなかった。
「任務だ」
 告げるとふ、と笑うような気配が伝わってくる。
「任務、だと」
「前線基地までの兵器の輸送。メガトロン様直々のお達しだ」
 付け加えたのはその任務の重要性を示唆し、拒否する余地を与えない為。
 ペイロードは暗がりを見詰めて返答を待った。

「任務、任務、任務」
 軋むような声で節を付けて歌うと、ドロップキックは身を起こした。
 手早くエネルギー補給をすませるとペイロードを振り返って頷く。
「いつでも」

 先に部屋を出たペイロードはまだ廊下にたむろしていた兵士達を睨めつけた。
「何をしている」
 皆非番か、と言う声に頷く者は少ない。
 後ろから続いて出たドロップキックは他の兵士達の好奇の視線にやや怯んだような様子をみせた。
 それを見て取ってペイロードは半ば隠すように身体を動かし、手を振った。
「配置に戻れ。前線に送り込まれたくなければな」
 さっと散った兵士に背後のドロップキックが息をついた。

 ちらりとその顔を見てからペイロードはドロップキックを促して倉庫へ向かった。




*2008/11/12