メガトロンに促されてサウンドウェーブが口を開いた。
といってもマスクに隠されているから声が流れ出してきた時点でそれとわかるのだが。
「大掃除だ」
ん?と一様に首を傾げた兵士達を無表情で眺めて、サウンドウェーブはモニターをさした。
「うげ…」
サンダークラッカーが顔を顰め、スカイワープもそれに続く。
「まさか」
「苔と藻をとれ」
情報参謀は冷たく告げるとぱちんと指を鳴らした。
モップとデッキブラシを引き摺ってフレンジーとランブルが進み出た。
「そんなのでやるのか?」
スラストが驚いたように言うと、メガトロンが笑った。
「楽しそうだろうが」
やるのは俺達だろ、とげんなりする部下達に大帝の陽気な命令が下る。
「全くなんで俺まで…」
「ぶつくさ言うなうるせぇ」
このスタースクリーム様がなんでこんなことを!と何分か置きに喚くスタースクリームにアストロトレインが怒鳴り返す。
じろりとアストロトレインを睨みつけてスタースクリームはがしゅがしゅと乱暴にブラシを使うと水を盛大に泡立てながら基地にこびりついた藻を削ぎ落としはじめた。
「全く。めんどくせぇこった」
スタースクリームと組まされたアストロトレインは同じく不機嫌丸出しの顔でぼやいた。
何かと文句をつけねば気が済まないとでもいうようなスタースクリームと一緒ではどんな仕事も嫌になる。
最もアストロトレインの場合、相棒と組むのでない仕事はほとんど全部そうだった。
そのブリッツウィングは水に入ると色々面倒くさい、という理由で基地でのモニター監視をやらされていた。
デスクワークの苦手な彼にはよっぽど酷な任務かもしれない。
そんなわけで最初はふて腐れながら掃除をしていたアストロトレインだったが、やっている内に楽しくなってきた。
しつこい苔も力加減がわかってきたせいか、するする落ちる。
つるりと綺麗な金属が顔を出すのには軽い快感を覚える程だ。
自然に笑いが浮かんできてアストロトレインは鼻歌でも歌いだしそうな顔でブラシを動かす。
夢中になっているとスタースクリームの金切り声が聞こえないのにふと気付いて周りを見回した。
「あの野郎、逃げやがったな」
舌打ちして先ほどまでスタースクリームのいた方に行くと、その声が遠くの方から聞こえてくる。
サボっているのに大声を上げるとは良い度胸だ。
この機に乗じて日頃の怨みに一発くらい入れても良いだろう、とにんまりしてアストロトレインは声の方に行ってみる事にした。
遊びながら大声を上げているのかと思ったが、声が近付くにつれそうではないことがわかった。
どうやら助けを求めているらしい。
とたんにやる気が失せて、アストロトレインは基地の方に引き返そうとした。
「おいっ、アストロトレイン!帰るんじゃねぇ!助けろ!」
びゅん、と掠めたビームに顰めっ面で振り返ると、アストロトレインは声のする方に向かってお返しとばかりに銃をぶっ放した。
「おぉ?!」
どうやら避けたらしい声に残念そうに舌打ちする。
「アストロトレイン!」
ああ、うるせぇ。
水中でもあいつの金切り声はよく通る。
めんどくせぇと思いつつも霞んだような水の向こうを目指す。
もやもやとしていたものの正体はスタースクリームの姿を捉えたと同時にわかった。
「すげ…」
「感心してないで助けろ!」
「うるせぇなあ」
ダイオウイカの足の先で叫ぶスタースクリームに鬱陶しそうに返事をして、アストロトレインはその巨大な姿にしばし見蕩れた。
「でけぇなぁ、ほんと」
スタースクリームそっちのけでイカを眺めた後、アストロトレインはめんどくさそうにで?と尋ねた。
「なんでお前そんなとこで遊んでるんだ?」
「遊んでるように見えるかこれが!」
お前の目は節穴だな、と鼻で笑うスタースクリームは少し余裕を取り戻したようだ。
「もうそのままそこにいればいいだろ」
なんならメガトロン様に許可をもらおうか、と笑うと今度は本気のナルビームが飛んできた。
「一人でも大丈夫じゃねぇの、そんなに元気ならよぉ」
「こいつの吸盤が張り付いてとれないんだよ」
お前の馬鹿力でどうにかしろ、と偉そうに言うのにアストロトレインは口を曲げた。
「自慢のナルビームを使えばいいだろ」
言い捨てて行こうとするのをちょっと焦ったようなスタースクリームの声が追い掛ける。
「おい、アストロトレイン!」
「助けて下さい、だろ」
「くそっ」
「どうした?」
ん?とにやにや笑ってアストロトレインはスタースクリームを促す。
「…助けてくれっ!」
「ま、いいだろ」
嫌嫌ながらも叫ばれた言葉に頷いてアストロトレインはしゅるりと伸びてきた足を避けてスタースクリームの腰に巻き付いた吸盤を引き剥がした。
すぽん。
すぽん、すぽん、と面白い音をたてながら吸盤が剥がれて、スタースクリームはやっと自由になった。
アストロトレインがイカに当たらないように威嚇射撃をするとイカは驚いたように泳ぎ去っていった。
「意外に早く泳ぐんだなー」
返事がないのに振り向くと、スタースクリームは腰を痛そうにさすっている。
「痛いのか?」
「当たり前だ」
折角人が心配してやったのに。
損な性格してるよな、と思ってアストロトレインはそれ以上手を貸すのをやめた。
正確にはやめようとした。
目の前でがっくり倒れられては手を貸さないわけにはいくまい。
舌打ちしながらもスタースクリームを担ぎ上げる。
「エネルギー切れか」
だらしねぇ、と溜息をつくと、ぐったりしていたスタースクリームが呻き声を上げた。
「ちがう」
「あ?」
「腰が痛くて立てないんだ」
「聞きようによっちゃ色っぽい話だが、握り潰されたってか」
「お前がもっと早く助けないから…」
茶化したアストロトレインを怨みがましく睨みつけるとスタースクリームは顔を顰めた。
悲鳴を上げるのをアストロトレインはうるさそうに中に乱暴に放り込んで基地に向かった。
「感謝しろよ、全く。おまえ一人運んでやるなんて俺はほんとに優しいこと」
アストロトレインの台詞に返事はなかった。
自力で掴まっていられないスタースクリームはアストロトレインの中でごろごろ転がっていたからだ。
*2008/11/11