フォートレス以下、サイバトロンの面々は、地球から戦いを終えて帰還した新しい戦士達を歓声を上げて出迎えた。
戦いの様子や新しい敵について熱心に語り合う若者達を横目に、フォートレスはグランドに近付いた。
「ご苦労だったな」
労いの言葉に頷いて、グランドは強張っていた顔を少し緩めた。
「地球を守れて良かった。それに…」
と少し躊躇ってから「ブラックザラックも倒したし」と続ける。
一瞬、フォートレスは顔を俯けてそれから大きく頷くと、グランドの肩に手を置いた。
「ゴッドジンライと話してくる」
フォートレスの背中を見送ってグランドは小さく溜息をついた。
ゴッドジンライと言葉を交わしてフォートレスは新しい仲間をマキシマスに招き入れる。
それを見届けるとグランドは自分のトランステクターに乗り込んで、デストロンの動向を探りにいくことにした。
一方、ゴッドジンライ達が各自休息できるように取りはからったフォートレスは一人自室で座り込んでいた。
『ブラックザラックを倒した』
それは、司令官としては喜ぶべき事である。
なぜ今更デストロンの戦力が欠けた事を憂う必要があるだろう?
自分にしてもブラックザラックの前身であるメガザラックを退けたではないか。
溜息をついて、フォートレスは普段あまり嗜まないエネルゴンをとった。
特に純度の高いものを選んで深く椅子に身体を沈める。
メガザラックらしき反応を捕らえた時、クロームドーム達は騒然となった。
フォートレス自身はあれで終わりとは思っていなかったから、多少予測していた事ではあったが、その姿を初めて見た時は目を疑った。
スコルポノックが新しいトランステクターを造り、強化していることは充分予想できたが、それはただの強化ではなかった。
思い出してグラスを握る手に力がこもる。
メガザラック、という呼びかけに答えたのは、彼の声だったが、彼ではなかった。
何度か交戦する内にメガザラックはデビルZに洗脳を受けている、ということが判明した。
ガルバトロンにさえ従わず、最終的にデストロンの首領となったプライドの高く、野心の強い彼が。
そう易々と洗脳などされるものか、とフォートレスは信じられなかった。
変わってしまったメガザラック、いやブラックザラックは感情のないただの戦闘マシンで。
フォートレスはそんな彼と戦いたくなかった。
自分の知る彼とはまるで掛け離れた存在で、そのくせ彼の声と似姿を持つ者とは、戦いたくなかった。
敵同士ではあったけれど、その前には仲間であったのだ。
クロームドーム達には言えなかったが、フォートレスはデストロンに彼がついたと知るまでずっと気にしていた。
ガルバトロンの下で勢力を伸ばし始めた時もなんと彼らしい、と少々不謹慎なことを思いもした。
その、スコルポノックはどうしたのだろう。
スコルポノックであってスコルポノックでないものになってしまったのだろうか。
そう考えるとフォートレスはブラックザラックを見るのも嫌だった。
デストロンの他の勢力も無視出来ない状況にあったから、ブラックザラックはグランドにまかせ、マキシマスを違う星系へと移した。
そして、今。
地球での激戦を終え、デビルZを倒して戦士達は帰ってきた。
ゴッドジンライの話だと、ブラックザラックはデビルZと融合し地球を壊滅寸前に追い込んだが、サイバトロン戦士の働きでそれは免れたらしい。
ブラックザラックは消えた。
メガザラックはとうの昔に消えていたのかもしれないが、完全な消滅を告げられてフォートレスは動揺した。
矛盾した感情だ。
もう一度大きく溜息を吐き出して、フォートレスはグラスの中のエネルゴンを呷った。
灼けるような喉の痛みと共に込み上げてきた感情を無理矢理抑え込んで息をつく。
「スコルポノック…」
呼んだ名前は一人きりの部屋で虚しく響いた。
「あの時、」
視線を落としたまま誰かに話し掛けるかのようにフォートレスの声が続く。
「あの時、お前を、」
声を詰まらせてフォートレスは首を振った。
黙ってエネルゴンを注ぐとそれを飲み干す。
言い掛けた言葉を一緒に飲み込んで、永遠にしまい込む。
今さら後悔しても何もならない。
ただ今日だけは彼の死を悼ませてくれ。
グラスを投げ出してフォートレスは目を閉じた。
*2008/11/07
*2012/06/11 ブログから転載、加筆修正