「少しは静かにしてろ」
基地に帰ってからハイドラー兄弟にねちねちと皮肉を言われて不機嫌になっていたブラッドは、鬱陶しそうにギルマーを睨みつけた。
「しょうがねぇだろ、いってぇんだよ!」
ちくしょう、と悪態をついてギルマーは壁を殴りつける。
股間を押さえながらなのでなんとも格好が悪いが。
思わず吹き出したダウロスに舌打ちして、立ち上がろうとしたギルマーはまた呻き声を上げて踞った。
「ぷっ、情けねぇなぁ!」
ぎゃははは、と腹を抱えてダウロスは遠慮為しに笑い、ブラッドもちらりとそれを見てかすかに口をつりあげた。
「てめぇら、人ごとだと思いやがって」
ぶつぶつ言うものの、動けないギルマーをダウロスはここぞとばかりにからかう。
顔を顰めて聞いていないふりをするが、握り拳がぶるぶると震えているのがダウロスの悪戯心を余計あおり立てる。
ギルマーが自分を押さえきれなくなってきたころ、ブラッドはようやく立ち上がった。
「そのへんにしとけ、ダウロス」
殺されるぞ、と笑い混じりに言って背中を押す。
「んだよ、ブラッド、もうちっと遊ばせろよ」
「お前がギルマーに殺されるのはちっとも構わんが、仲間割れだと思われてみろ、あいつらが何と言うか」
本当に気に入らん、と顔を顰めてブラッドは首を振った。
「ちぇ、俺のことは心配してくれねぇのかよ」
「なに、ギルマーは手負いだぞ、やすやすとお前もやられまい」
蹴るところを蹴れば、な、と顔を見合わせて二人が笑うとギルマーは怒ったように唸り声をあげた。
「さて、と」
ダウロスが出ていったあとブラッドは、口を曲げて股間を押さえているギルマーを見下ろした。
「仕方がない。みせてみろ」
「は?え、ブラッド?」
「お前のリペア技術では治せないだろう」
言ってブラッドは躊躇う様子もみせずにギルマーの前に膝をついた。
「こりゃ痛そうだ」
タイヤに抉られてめくれた装甲を見てブラッドは顔を顰める。
まじまじとあられもない場所を凝視されてギルマーはなにも言えず口をぱくぱくさせていた。
「ん?なんだ循環ケーブルもちぎれたのか?」
「うっ、わわ、ちょ、ま、いやブラッド…!」
ぐい、と装甲に指を突っ込まれてギルマーは仰天する。
「あ、う、」
「面倒だな。全くあの若造が…」
千切れたケーブルをずるっと引き出されてギルマーは身体を震わせた。
「おま、え、それはないだろ、」
「なんだ、治して欲しくないのか」
いや、治して欲しいけれども。
下手に顔を赤くされながらやられても困るが、ここまで意識しないのもどうなんだ。
「じゃあ大人しくしてろ」
言ってブラッドはリペア道具を引き寄せた。
ブラッドの武骨だが綺麗な指先が自分の股間にあてがわれているのを見てギルマーはなんだか眩暈を覚えた。
赤く輝くバイザーのせいでその表情はよくわからないが、どうやら真剣に治してくれているようだ。
いたたまれなくて、というかブラッドの手元を見ていると変な気分になってくるので、ギルマーは上を向いている事にした。
つとめてなにも考えないようにするが、聴覚に軽く火花の散る音やオイルが指先を濡らす音、ブラッドの呼吸だけが響いてくると。
これは治療なんだ、治してもらってるだけだ、と繰り返し頭の中で呟くが、ブラッドが小さく息を呑んだ音で集中力が途切れた。
「ってぇ」
火花が飛んだ、と痛そうに指先を銜えて。
ああ、俺はなんにも悪くない。
ブラッドがいけないんだ。
突然ギルマーに押し倒されてブラッドは状況を把握出来ず、強かに打ち付けた後頭部の痛みに顔を顰めた。
「…お前が悪いんだからな」
「は?なに言って」
「治してくれてありがとよ、お蔭で一丁いけそうだ」
「…はぁ?」
ぽかんと口をあけたブラッドに笑ってギルマーは昂ぶった己を押し付けるようにした。
やっと状況を飲み込んだブラッドは焦ってギルマーを押し退けようとするが、がっしり押さえ込まれて身動きがとれない。
「やめろ、なんのつもりだ貴様!」
怒って身を捩るブラッドにギルマーはにんまり笑った。
「いいだろ、最近ご無沙汰だったし」
「いいわけないだろ…!離れ、ろっ、ギルマー!」
観念しろって、とうるさい口を塞ぐとブラッドは諦めたように力を抜いた。
「治すんじゃなかったぜ」
「今更だな」
「くそ」
「ま、いいじゃねぇか。気持ち良くするからよ」
「当たり前だ」
*2008/10/25
*2012/06/11 ブログから転載、加筆修正