ぼんやりと霞んだ意識の中から浮かび上がり、部屋を見渡して首を傾げた。
なんでこんなところにいるんだっけ?
目を擦ろうとして手の自由が奪われている事に気付いた。
鎖?
困惑して薄暗い部屋を見回す。
どこだろう、暗くてはっきりと全貌を掴む事ができないが、知らないところだ。
と、近付いてくる足音に身体を強張らせて息を潜める。
眩しい光に思わず目を伏せて、扉の閉まる音に顔を上げた。
おもわず後退った身体が両手の鎖に止められてがちゃ、と鈍い音が響く。
「なかなかそそるな」
目を細めてこちらを見る男。
誰だろう。怖い。何だかすごく嫌な感じがする。
「震えてるのか」
笑って顎を掴まれ無理矢理顔を上げさせられる。
楽しそうに口をつりあげる男に必死で鎖の許す限り後退る。
「頼む、出して、出してくれっ、ここはどこだ?俺が何したっていうんだよ!お前は誰なんだ!?」
叫んだとたん、目の前の男の纏う空気が一変した。
ひっ、と息を呑んだ次の瞬間激しい痛みが右足に走った。
「がっ…」
思わず体を縮めると、再び左足を衝撃が襲う。
「わからないのか」
痛みと冷たい言葉とに声も上げられず、恐怖と混乱で息が荒くなる。
痛い。震えが止まらない。オイルが流れて身体が寒くなってきた。
自分の置かれている状況が理解出来ない。
ここがどこかも、目の前の男が誰かも、…自分が誰かさえも、わからない。
俺は誰だろう、こいつと知り合いなのか?
なんで撃たれたんだろう?
不機嫌な顔で考え込むようにしていた男が冷たい微笑を浮かべて近付いてきた。
ぎくりと撥ねた身体を宥めるように、屈み込んだ男の手が触れる。
「誰なんだ?」
また撃たれるかもしれない。それでも怯えて掠れた声で問うと、男は笑みを深めた。
「俺がか?それともお前が、か?」
「俺はだれだ?どうしてこんなことに」
息を詰まらせて痛い、と呟く。
「お前は罰を受けていた」
なぜ、と首を傾げる囚人に男は勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「だが、もう俺のものだ。スラッグスリンガーの、な。」
「・・・スラッグ、スリンガー?」
繰り返しても思い出せない。
「俺の名前は?」
「知りたいか?」
頷くとまだ痛む足をぎりぎりと踏みにじって、スラッグスリンガーは顔を歪めた。
「い、たいっ・・・や、やめてくれ、頼むっ」
一瞬見せた笑みに油断した。
悲鳴を上げて身をよじっても、スラッグスリンガーは構わずなおも傷を蹂躙する。
流れ出したオイルの匂いが部屋に充満する。
大量のオイルを失って虚ろな表情で身体を鎖に預けたウルフの身体を引き寄せる。
ぼんやりと見つめる視線に噛みつくようなキスで答えた。
「ウルフ、ウルフ、俺のものだ」
歌うような調子で呟き、すでに意識を失い掛けた身体を優しく揺する。
足元に零れたオイルを無造作に掬い、指を口の中に差し込む。
「ん…」
少しのオイルに反応してウルフは子供のように指を吸う。
にがい、と呟いて目を閉じた顔を名残惜しそうに見遣ってスラッグスリンガーは部屋を出て行った。
「まだウルフは見つからないのか」
スコルポノックは手の中のエネルゴンを弄びながら眉を顰めた。
「偵察中になにかあったのかも」
ワイプが首を振り振り呟く。
「俺達も行けば良かった」
兄貴、と肩を落としたスカルをワイプが励ますように叩いた。
腕組みをしたスラッグスリンガーも首を振る。
「仕方がない。出発はこれ以上引き延ばせん」
「そんな、兄貴は?!」
はじかれたように顔をあげたスカルを安心させるようにスコルポノックは手をあげた。
「捜索は続けるし、いつ連絡が入ってもいいようにしておく」
隅に控えていたシックスショットに目を向けて、スコルポノックは「出発だ」と、短く言った。
「お主、何か知っているのではないか」
廊下で肩を掴まれてスラッグスリンガーは心外だ、と言わんばかりの表情を浮かべた。
「もし知っていたら言わないわけがないだろう」
肩を竦めて見せたスラッグスリンガーにそれ以上追求せず、シックスショットは彼が去っていくのを見送った。
何か怪しい、と直感が告げるがそれを打ち消してコントロールルームに向かう。
きっとそのうち連絡を寄越すだろう。
そうでなければ、そこまでのやつだ、ということだ。
肩を竦めてシックスショットは足を速めた。
*2008/10/03
*2012/06/11 ブログから転載、加筆修正